■事業形態より意識改革
ケアマネジャーが利用者に自社のサービスを使わせる“囲い込み”。ケアマネジメント以外のサービスも持つ「併設型」の事業所で見られます。しかし、公正中立を目指し、努力を重ねる併設型の事業所もあります。厚生労働省もこうした事業所に後押しを始めました。ケアマネの独立性にとって大事なのは、事業形態ではなく、心の独立のようです。(永栄朋子)
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「〇〇さんの様子、どうだった?」
8月初旬の昼下がり。ケアマネジメントと介護サービスの両方を提供する併設型事業所「新生メディカル」(岐阜市)の瑞穂営業所で、ケアマネジャーの宮川耐子さんが、利用者宅から戻ったばかりのヘルパーに声をかけた。
「元気でしたよ。お食事もよく召し上がってました」とヘルパーさん。
ごく普通の民家の、6畳間と居間に、ケアマネジメントとヘルパーの事業所が並んでいる。庭先の離れはデイサービスに利用している。
ケアマネは、気になる利用者の様子を、すぐにヘルパーらに聞ける。扉を開ければ会えるし、年に数回、合同の勉強会があるので連携は密接だ。
宮川さんは「ケアマネが利用者宅を訪問するのは月にせいぜい2、3回。頻繁に接するヘルパーからご利用者の様子をじかに聞けるのは、状況把握に役立ちます。実際にサービスをする人と密な連絡が取れるのは、併設型事業所の長所ですよね」と話す。
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では、利用者の意図にかかわらず、自社の介護サービスを使わせる「囲い込み」はないのだろうか。
「うちは、ご利用者の希望とか、通いやすさなどの合理的な理由があれば、他社のサービスを使ってもかまわないんです。それが働きやすさにつながっています。私のご利用者も『長く世話になったヘルパーさんを使いたい』というので、他社の方でしたが、お会いしてそのままお願いしているし、『近所のデイを使いたい』という方の意向もくんでいます」
同社は岐阜県内に7営業所を展開する。複数のサービスを提供するが、ケアマネジメント部門は全営業所で赤字だという。同社の石原美智子社長は「ケアマネ部門はどうやっても赤字です。でも、赤字で構いません。他のサービスでカバーすればいい」と言い切る。目先の利益を追求したら、利用者のためにならないとの信念があるようだ。
そのうえで、「囲い込みを強要されるなど、劣悪な環境にいるケアマネは飛び出す勇気を持ってほしい。ケアマネは売り手市場だから、働き場はある。そうすることで悪質な業者は駆逐されていくのではないか」と話す。
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しかし、囲い込みが生じる背景には、「ケアマネ部門はどうやっても赤字」という体質がありそうだ。目先の利益を考える事業者が、赤字のケアマネ部門を“営業部隊”と考えがちなことは容易に想像できる。また、独立型ケアマネが「理想を求めたのに、やっていけない」と、悲鳴を上げる構造もここにある。
厚生労働省も4月、こうした赤字体質と囲い込み解消を目指してか、新しい報酬制度を打ち出した。公正中立の立場で質の高いケアマネジメントを提供する事業所を優遇する「特定事業所加算」で、(1)家族の介護放棄、認知症の独居などの難しいケースを受け入れている(2)利用者にサービスを提供する際の注意事項などについて会議を開いている(3)ケアマネに研修の機会を確保する−など、「地域の手本」となるようなケアマネジメント事業所には、ケアプラン1件あたり月に5000円を上乗せする。
介護報酬は現在、要介護度に応じて、1万円〜1万3000円だから、この加算は大きい。これに独立型ケアマネも期待をかける。
独立型事業所「ケアプラン駒沢」(東京都世田谷区)のケアマネ、成田和代さんは「独立したいと望むケアマネは多いが、報酬の低さが壁になっていた。特定事業所加算ができたことで、やりがいができた」と話す。
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大阪市立大学の白沢政和教授は「ケアマネジメントの公正中立をどう守るかという話では、すぐに独立型がいいという話になりがちだ。しかし、併設型事業所でも、独立型事業所でも、大事なのはケアマネが『心の独立性』を保てること」としたうえで、「医者に『稼げ』と命じる病院経営者はいない。ケアマネジャーは高齢者の生活の質を上げる専門職なのだという社会的認識を作っていくことが大切だ」と話している。
(2006/08/23)