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自立できるか 障害者自立支援法(2)

統合失調症の女性からの便りには、環境の変化を心配する気持ちが切々とつづられていた


各都道府県別の在宅サービスの提供量の違い


 ■施設経営者の悲鳴

 ■存続危ぶまれる小規模施設

 介護や介助サービスの自己負担が、障害者にも求められるようになりました。一方、障害者に通所や入所のサービスを提供する施設に対する公費補助も厳しくなり、人件費の圧迫や規模縮小が迫られています。障害者の自立に寄与してきた小さな施設が立ちゆかなくなることを、心配する声が上がっています。(北村理)

 統合失調症の女性(51)=神戸市在住=から9月、編集部に手紙が寄せられた。

 「目にとまるように」と花柄模様の封筒に入れられた5枚の便箋(びんせん)には、現在の施設に通う喜びとともに、支援法により環境が変化することへの不安がつづられていた。

 −授産施設へ通い、病気がずいぶん良くなりました。9年入院してましたが、今は、働けて、給与をもらえて、喜びでいっぱいです。しかし、若くはありませんし、病気の再発を心配するので、今の環境を大事にしたいと思ってます。

 女性が「今の環境を大事にしたい」というのは、支援法施行で障害者の環境激変が予測されるからだ。

 神戸市内には、精神障害者のための通所施設(地域生活支援センター)が7カ所あり、900人の利用者が登録している。しかし、神戸市は10月からの施設再編にともない、うち3カ所に補助打ち切りを通知した。3カ所は規模縮小か廃止の選択を迫られている。

 女性が通う通所型の授産施設「なでしこの里」(定員25人)では、公費補助は継続される見通しだ。しかし、施設利用者らの不安は色濃い。施設長、池山美代子さんも「精神障害者は環境の変化がプラスに作用しない可能性がある」と心配する。

 公費補助は継続されるものの、運営はやはり厳しくなる。利用者らへの自己負担導入に伴い、国や地方自治体が施設に支払う事業費も10月に月割りから日割り計算になる。利用者が休んだ分は計上されなくなるのだ。

 なでしこの里を運営する社会福祉法人「かがやき神戸」が、日割り計算に移行した後の事業費を試算したところ、同施設では平成17年度の事業費3620万円に比べ、約700万円の減少見込み。20%ダウンだ。

 池山施設長は「事業費が減れば、職員報酬を減らすか、人を減らすかしかない。そうなれば、1人の仕事量は増え、サービスは低下する。それなのに、サービス向上を目指せというのは矛盾している」と指摘する。

                  ◇

 都市部がサービス再編に悩む一方、そもそも、サービスがない地域もある。厚生労働省によると、都道府県別の在宅サービスの提供数は最大7・8倍。

 岐阜県本巣市(人口3万5000人)に住む訪問介護所職員、中島恵美さん(36)が代表を務める最重度、重度の知的障害児の父母の会「ふくふく」では、7家族が「グループホームの建設を夢みて」、1年半前から毎月1万円の積み立てを続けている。

 「具体的な見込みはありませんが、成人した後の行き場がないので、親の不安解消のための苦肉の策です」

 同会には共働き家庭が多く、在宅サービスがよく利用される。しかし、地域のサービス量が少ないため、「月に数回、それぞれ2時間ほど確保するのが精いっぱい」(中島さん)だ。さらに、4月の支援法施行で、収入が安定しなくなった施設が「手のかかる重度障害児のサービスを控え始めた」(同)という。

 こうした現状に、会の母親らは「親が元気なうちはいいが、この先、わが子がどう暮らしていけばいいのか見えてこない。不安が募るばかりだ」と口をそろえる。

                  ◇

 かがやき神戸の支援会長で、元・兵庫県立総合リハビリテーションセンター長の澤村誠志さんは「移動が難しい重度の障害者にとっては、地域の支援が力になる。親身できめの細かいサービスが可能な小規模作業所の存在意義は大きい」と、小規模施設の必要性を訴える。

 神戸市によると、障害者が規模の大きい授産施設(29カ所)で稼ぐ平均工賃は5186円なのに対して、小規模作業所(105カ所)では1万511円と、倍近い。

 だが、支援法による施設再編で、こうした小規模施設が姿を消す危険性がある。

 そうした状況を防ごうと、澤村さんは神戸市に支援法施行による影響調査と善後策を検討する組織の立ち上げを呼びかけた。「障害者に自立を促す支援法の趣旨には賛成だ。しかし、自立には、地域で自立支援の環境づくりを先行させる必要があった。今後は、現場の状況を把握して修正していく必要があるだろう」と澤村さんは指摘している。

(2006/09/19)

 
 
 
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