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自立できるか 障害者自立支援法(3)

 ■義肢装具も定率1割負担 数十倍上がる利用者も

 障害者が使用する義足や義手、車いすなどの義肢装具も、10月から利用者に、定率の1割負担が求められます。負担は従来、所得に応じて決められていましたが、今回の定率負担で負担が一気に数十倍にはねあがる利用者も…。厚生労働省は「これまでより利用者に有利な環境づくりもしていくので、制度をうまく利用してほしい」と呼びかけています。(北村理)

                    ◇

 「もうちょっと、(義足を)短くしてもらおうよ」

 「やーだ。足は長いほうがいい」

 「手が届かないと、靴がはけないじゃないの」

 9月はじめ、東京都文京区湯島の田沢製作所。埼玉県戸田市の市立美女木小学校の5年生、広瀬綾ちゃん(11)と母親の優実さん(36)がこんな会話を交わしていた。

 綾ちゃんは先天性の四肢欠損の障害があるが、活発で水泳選手でもある。このため、義足も日常使用とプール用の2種類がある。成長期で、毎年のように義足を作り直す。

 毎年、1〜2回の作り替えで200万〜300万円はかかるが、これまでは地元の戸田市が負担しており、自己負担はなかった。

 この日は、10月の定率1割負担実施を前に、義足を作りにやってきた。「(負担が)どうなるか分からないから、(旧制度のうちに)新しい義足に変えてもらいました。負担が増えたら、アルバイトでもしなくちゃいけませんね」(優実さん)。

 戸田市は今後も、支援を続ける方針だが、優美さんは「綾が数年後に学校を出た後、どんな人生を送るか分からない。健常者と同じように育てたいが、これまでと同じ水準の福祉サービスを受けたときに、その自己負担ができるような経済力があるかどうか、不安に思う」という。

 しかし、どの自治体も障害者をこれほど支援するわけではない。地方交付税不交付団体で財政が豊かな戸田市のように、スポーツ用の義足まで支援対象とするケースはまれだ。

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 大分市の幸(ゆき)義肢サービスにも、10月を前に、義足の作り替えに“かけこむ”利用者が増えている。

 義肢装具士の幸幹雄さんは「通常、調整に時間をかけるので、作るのは月に2件ほど。しかし、8〜9月の要望は通常の倍以上。対応しきれないので、診断と書類申請を先に行っている」という。

 幸さんによると、成人の場合、義足は通常、2年に1度の作り替えが必要。しかし、生活環境によっては、そのサイクルが短くなる。

 別府市内でラーメン屋を営む男性(57)の場合、「厨房(ちゅうぼう)で仕事をするので、熱で義足の部品が膨張して、1年に1度、作り替えなければならない」と幸さん。

 このケースでは、義足1本で1250円だった自己負担が、10月以後には3万7200円と、30倍にはねあがる。

 幸さんは約100人の利用者を抱えるが、「100人いれば義足の利用状況は百様。同じ価格の義足なら、自立して仕事する人ほど消耗は激しい。それを定率負担にすると、不公平感が増すのではないか」と懸念する。

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 千葉県茂原市の身体障害者福祉会事務局長、小林和子さん(56)は3歳の時に交通事故で、右足の大腿(だいたい)部から下を切断した。

 今、注文している義足は、コンピューター制御の高機能のものだ。「健常者のように、左右交互に足を動かして、普通に歩いてみたいなと思うんです」。

 この高機能義足は、コンピューターが体重移動を記憶し、自分の足のように動いてくれる。

 見積もりはこれまでの義足より100万円高い、180万円。しかし、公費助成は受けられそうにない。過去にも同じような値段の義足を申請したところ、市はけんもほろろだったからだ。「障害者の生活の質を高める高機能の義足は高額だからと、県や市は補助の対象にしようとはしないんです」と、小林さんは解説する。

 今回は、全額自分で支払う一方、県に無利子貸し付けを求めるつもりだ。本来、福祉自動車の購入などに適用される貸し付け制度が、義足に認められるかどうかは分からない。小林さんは「家族に負担はかけたくない。障害者に負担を求めるなら、負担の助けになる制度を充実させるべきだ」と主張する。

 厚生労働省障害福祉保健部は「装具の技術が進んでいるのは認識している。支援法施行に伴い、新しい技術も補助の対象にすべく、常設の検討会を設ける。障害者の生活の質を高める努力をし、選択の幅は広げたい」としている。

(2006/09/20)

 
 
 
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