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お隣さんの介護力(上)地域で高齢者「見守り隊」

 ■“ご近所の目”で孤独死防ぐ

 「向こう三軒両隣」。一昔前なら当たり前だった“ご近所さん”の気遣いが、地域の介護力を高めています。特に、高齢者世帯の「見守り」活動は、今や全国の約半数の市町村で行われており、「孤独死が減った」といった成果も聞かれます。介護保険制度の枠を超えた地域の取り組み。第1回は「私も『見守り隊』の活動をしていますよ」という読者の情報を元に、まず、東京近郊の埼玉県行田市を訪ねました。(永栄朋子)

 行田市で理髪店を営む玉井由紀さん(64)=仮名=は数年前から、はす向かいに住む中島ハツさん(83)=同=の「見守り隊」をしている。市の社会福祉協議会によると、約140人の高齢者がこうした見守りを受けている。

 中島さんは、独り暮らしで心臓に持病があり、これまで何度か救急車で運ばれた。そこで、地域の民生委員が中島さんを案じ、玉井さんら近所の主婦3人に見守りを頼んだのだ。

 「新聞や洗濯物は取り込まれているか」「電気がついているか」−。普段から気にかけ、変わったことがあれば、民生委員に連絡する。

 こうした活動を通して近所同士の付き合いも深まった。玉井さんは毎朝、中島さんの家の格子戸を開けて新聞を手渡したり、サンマを焼けば、半分おすそ分けしたりするようになった。「草むしりが好き」という隣家の主婦も中島さん宅の庭の手入れをしている。

 「なんせ、中島さんは口が悪いから。私には『大事な花まで抜いていく』ってお隣の悪口を言って、お隣には『半分しか魚を寄こさない』って私の悪口を言ってるのよ」。玉井さんは楽しげに話す。

 というのも、中島さんは口では文句を言いながらも、実は“ご近所さん”を頼りにしているからだ。自宅にはボタン1つで消防署につながる緊急システムがあるのに、心臓の発作を起こすと、玉井さんに電話をかけ、助けを求めてくる。

                    ◇

 「見守り」の取り組みは声かけや散歩、通院の付き添い、話し相手になるなど、地域によってさまざまだが、介護保険ではカバーできないところにも目が届くと注目されている。

 秋田県大仙市(大曲市など8市町村が昨年合併)は、熱心な活動を続けている地域の一つ。

 同市では昭和50年代、お年寄りの孤独死や自殺が相次ぎ、早くから見守りなど地域のネットワークづくりに力を入れてきた。特に市北部の御幸町という地区では、見守りが地域にすっかり定着している。

 「ゴミ出しは〇〇さん」「冬の雪かきは××さん」。担当ごとに責任の所在をはっきりさせているのが特徴だ。「『何となく見守る』という態勢だと、誰かがやっているだろうと思いがちで、結局は目が届かなくなる」(前町内会長の進藤幸雄さん)と考えたからだ。

 きっかけは、生活保護を受けている人が2人続けて孤独死したこと。その後、見守りの責任体制を整え、10年以上の間、孤独死ゼロが続いている。現在、見守り対象者は6人。うち3人には認知症があるので、近所の人が毎晩、火の元の点検に訪れる。負担は大きいが、進藤さんは「住民には『やがて自分もお世話になる身』という考えが定着している」と話す。

 人口300人弱、高齢者だけの世帯が3割を占める地区で、独居で暮らし続けていけるのは、まさに“ご近所さん”の手助けがあるからだ。

 全国社会福祉協議会によると、昨年4月現在、全国に2249ある社協のうち、約半数が見守り活動に取り組んでいる。悪質商法の被害防止や災害時の避難のサポート役も期待されている。親を残して遠方で暮らす子供や、民生委員の評判も上々だ。

                    ◇

 だが、見守りには難しい問題もある。他人に見守られることを嫌がる高齢者も少なくないのだ。

 行田市で民生委員を務める女性は、「こちらが見守りが必要だと思っても、受け入れるお年寄りは10人中1人か2人。顔見知りのご近所さんだからこそ、『あの人の世話にはなりたくない』というお年寄りも多い。誰に見守りをお願いするか、人選に苦労します」と話す。高齢者にも、近所への遠慮や長年の人間関係など、単純に割り切れない“思い”はあるのだ。

 しかし、大仙市の進藤さんは「『隣近所のやっかいになりたくない』というのは、元気なときのセリフ。いざというときに頼りになるのは、遠くの親戚(しんせき)より近くの他人ですよ」と強調する。

 高齢者に「監視されている」と感じさせないように、「今の季節なら、『大根の葉がおいしいから、料理してきましたよ』なんて、世間話のついでに寄った雰囲気を出すよう心がけている」(進藤さん)。そうしたちょっとした配慮が、見守りのコツだそうだ。

(2006/09/25)

 
 
 
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