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お隣さんの介護力(中)筋トレ“OB”の協力

 ■助け合って自分も元気に

 「情けは人のためならず」。高齢化が著しい大阪のベッドタウン、奈良県生駒市で、要支援・要介護の筋肉トレーニングを行った“OB”たちが、トレーニング教室の運営に介助スタッフとして携わっています。ボランティアによる貢献に加え、新たな生きがいづくりや自らの介護予防にも役立っているようです。背景には、介護保険の給付費の増加を抑えたいという市の切迫した事情もあり、こうした取り組みは、各地に広がっていきそうです。(永栄朋子)

 大阪の難波から電車で20分。近鉄生駒駅にほど近いビルの一角で毎週4回、筋トレ教室が開かれている。今春から介護保険制度に加わった「新予防給付事業」の一環だ。

 一見、どこにでもある筋トレ教室だが、ちょっと違うのは、介助スタッフの多くが、市が国の補助を受けて開いていた要支援・要介護者向けの筋トレ教室の卒業生。全国的にも珍しい取り組みで、80歳代後半のボランティアもいる。

 瀧野賢一さん(64)も、その1人だ。メーカーの技術者だった瀧野さんは6年前、仕事中に脳梗塞(こうそく)で倒れ、半年ほど寝たきりになり、後遺症で言葉も不自由だった。

 「病院のリハビリもええことなかったしなぁ。うちは生駒山のふもとにあるから、嫁さんに家の前の坂を『歩け、歩け』って言われたんやけど、歩くのはせいぜい週に1回やった」

 しかし、奥さんの勧めで昨夏、筋トレ教室に参加。室内でもつえが手放せず、筆談でコミュニケーションをとりながら、3カ月間のトレーニングを終えた。その時、介助スタッフに勧められ、ボランティアに“転身”。最初はお茶くみや予定表の張り替えくらいしかできなかったが、続けることで体調はよくなった。

 面倒だった自宅前の坂道の上り下りも、ボランティアに行く目的ができたことで、嫌ではなくなった。週3日、往復1時間の通勤を続けたおかげで、つえもつかずに、受講者の手助けができるまでに回復した。

 瀧野さんたちボランティアの存在は、筋トレ教室の受講者たちの励みになっている。脳梗塞の後遺症がある女性(76)は「ボランティアやるのが目標や」と言い、80歳の女性も「『もう年やから』なんて言うてられへんなぁ」と感心している。「10年後、20年後の自分が、あんなふうに生き生きとしていられるだろうか」と話すのは、50歳代のスタッフだ。

 瀧野さんは「人に喜ばれてうれしいけど、ボランティアはつくづく自分のためやと思う。つえなしで歩くのと、車の運転ができたらいいな」と話す。

                  ■□■ 

 昭和50年代に人口が急増した生駒市は、急速な高齢化に直面している。子供たちが独立し、高齢になった親たちの世代だけが残る「ニュータウン現象」だ。

 昭和50年に32歳だった市の平均年齢は、今月1日現在41・9歳。今後

10年間に現市民の約17%が高齢者になる。平成12年度には26億円だった市の介護給付費は、17年度に41億円となった。市の試算では、このペースで介護給付費が増え続けると、6年後に60億円に達するという。

 市福祉支援課の奥谷長嗣課長補佐は、「市はこれまで介護サービスを充実させることに腐心し、住民の側にも『使わなきゃ損』という風潮があった。しかし、このままでは財政が行きづまる。高齢者が地域で支え合う仕組みを整えないと、介護保険の制度そのものが壊れてしまう」と話す。

 このため、市では15年からボランティア講座を開くなど、地域のボランティア育成に力を注いでいる。

 「年間の介護給付費は利用者1人あたり171万円。このままだと、10年以内に皆さんの保険料を5割、6割アップしなければならなくなるかもしれません」。講師を務める市の担当者は、介護の現場で感じていることを、ありのままに語り、市民と話し合うという。 全10回の講座を終了した約160人の受講生は、市内に高齢者のためのサロンを作ったり、見守り活動を行ったりしている。介護や福祉について話し合いを重ねたことで、地域の問題を自分たち自身の問題として受け止めるようになった。

                  ■□■

 介護を受ける立場だった瀧野さんは今、サービスは受けていない。しかし、ヘルパーなどの介助を受けながらボランティアをしているOBもいる。

 介護予防などに詳しい国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授は、生駒市の取り組みを「何か役割を持ちたいというのは人間の自然な欲求。介護を受けている人も、似たような境遇の人の間には入っていきやすいのでは」と指摘。そのうえで「そういう人が目の前で輝いているのは、まさに生きたサンプル。波及効果は大きい」と評価する。

 市福祉支援課の田中明美さんも、「健康で若い私たちが、いくら介護予防の重要性を訴えても、元気になったOBにはかなわなかった。行政はこれまで、高齢者や障害がある人を勝手にサービスの受け手にしていたのかもしれません」と話す。瀧野さんたちの頑張りは、介護行政の流れも変えようとしている。

(2006/09/26)

 
 
 
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