■保険の対象外をカバー
人間、誰でも年をとれば「ちょっとした手助けがほしいな」と思うときがあるものです。しかし、今春の介護保険法改正で、介護度が低い人は家事そのものの代行サービスが受けにくくなりました。最終回は、こうした「SOS」に応えるため、地域に密着して活躍するボランティアの人たちを追いました。(永栄朋子)
名古屋から約40分、愛知県南部の高浜市の公営施設で開かれている宅老所「悠遊たかとり」で、仲間と楽しそうに歓談している都築ふさゑさん(89)に会った。「お墓参りに、ここやろ。何かと忙しい」。元気で年齢を感じさせない。そんな都築さんも、1人暮らしだから、ときには困ったことも…。
「そういうときは『ちょっこらや』さんに頼むんや。ようサービスしてくれるわ」
「ちょっこらや」は、「悠遊たかとり」の週2日の開催日のうち、木曜日を担当する男性ボランティアたちの活動だ。平均年齢は60代半ば。約20人が4、5人でローテーションを組む。
家具の移動、家の修繕…。1回1時間程度という条件で依頼があると、その日の当番が無料で駆けつける。都築さんは植木の手入れを頼んだという。
「どうせ男ばかり集まるんだから、男手を必要とする家の手助けをしよう」(代表の神谷実さん)という思いがきっかけ。日曜日は女性のボランティアが食事を提供するので、木曜日も「男でもできる」うどんと芋がゆを振る舞い始めた。それでもヒマな時間が結構ある。これを活用しようと、4年前から始めた。
年間に多くて70件の依頼があり、熱で寝込んだ1人暮らしの男性(67)にうどんを届けたこともある。
合言葉は「無理をしない」だ。「当番はせいぜい月1度にしておかないと、続けるのは難しい。『ちょっこらや』が1時間に限ってるのは、『あれもこれもやって』とキリがなくなるから」(神谷さん)だという。
★★★
さらに踏み込んだ活動をしているグループもある。大阪市東住吉区の「今川社会福祉協議会ボランティア部」は、発足した昭和54年から毎月、高齢者だけの世帯の「友愛訪問」を続けている。地区内に17ある町内会による訪問回数は延べ1万回を超えた。
メンバーの小倉啓之亮さんは、「よろず相談みたいなものですな。訪問先で困っていることを聞き出し、自分たちでできないことは、市など関係機関につなぐようにしています」と話す。
地域で独居の人が入院したら、メンバーが当番を決めて洗濯の世話をするし、生活が苦しい人がいれば、生活保護の申請を手伝う。
「介護のお金が高すぎるんやけど…」。1人暮らしの女性から相談を受け、よく調べてみたら、介護保険外のサービスも含め、自己負担額が毎月14万円弱に達していた。そこで、担当のケアマネジャーに「私たちができることがあれば、やりますから」とケアプランの見直しを求めたケースもあった。
身寄りのない人のお葬式も3回出した。ある男性の場合は、遺言状に従ってボランティア部が遺骨を埋葬したという。
ただし、大がかりなボランティアを長く続けていくのは、無償では難しい。今川地区の場合は、住民による年1回の募金のほか、家事援助などのボランティアを1時間600円の有償で行い、運営費に充てている。
「週に30分、時間ない?」。こうした呼びかけに応じて集まったボランティアは約150人。いずれも地区の住民だ。リーダー役は各町内のボランティア部長。地区の高齢者たちは「部長のことはよう知っとりますが、町内会長の名前? わかりまへんがな」と言っているそうだ。
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横浜市港南区のNPO法人(特定非営利活動法人)の「有為グループ」は、介護保険のサービス事業のほか、「どんな頼みも断らない」をモットーに、介護保険外のサービスも有償で行っている。このため、「手がかかる」とほかの事業所からサービスを断られた「支援困難ケース」も回ってくる。
今年81歳になるヘルパーの高村京子さんは、これまで5人を看取(みと)った。3年前には、岩手県の娘の元から、「どうしても横浜に帰りたい」と戻ってきた80歳の男性を看取った。男性には昼間は、介護保険でヘルパーがついていたが、サービスを使い切り、夜間は1人になってしまうからだ。
現在、高村さんは「要支援1」の女性(64)宅に毎週1回、食事を作りに行っている。介護保険制度は要支援1の場合、食事は自力でつくり、ヘルパーのサービスは手助けに限っているが、この女性は若いころから病気がちで家事経験がなく、自活が難しい。
介護保険ではすべてのニーズに対応できないのが現実だ。地域の福祉事情に詳しい同志社大学の上野谷加代子教授も、「介護保険はあくまでも保険。実際には認知症などの認定が低くなりがちだが、手助けを必要とする人はいる。生活者の視点を大切にしたボランティアの取り組みが、制度の改善につながればいいと思う」と話している。
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【用語解説】介護保険の生活援助
ホームヘルパーが利用者を訪問して掃除や洗濯、調理などを行うサービス。今年4月の介護保険法改正で、「介護予防」の考え方が導入され、介護度の軽い「要支援1」「要支援2」と認定された人は、できる限り自分で行い、ヘルパーはその手助けをする予防サービスに変更された。介護報酬も改定されたことで、「要介護1」以上の人へのサービス提供時間も短縮される傾向がある。
(2006/09/27)