特ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

訪問ヘルパーが来ない!(上)



 □家事支援は単身者だけ?

 ■「介護の社会化」どこへ

 家族との同居を理由に、介護保険の訪問ヘルパーを打ち切られる事例が全国で相次いでいます。家族の介護負担を社会全体で負うために、介護保険は始まったはずですが、今年4月の改正法実施以来、現場では同居家族の有無がサービス利用の要件になっているようです。背景には、要介護度の軽い人への家事援助を制限したい厚生労働省と市区町村の思惑があるようです。(寺田理恵)

 「私は実母と義母の下の世話をしましたが、もう嫁に介護をしてもらえる時代ではありません。人さまの手を借りなければ生活できないのに、この4月から介護保険(の限度額)が3分の1に減らされ、その上、同じ敷地内に息子夫婦が住んでいるので、ヘルパーさんに来てもらえなくなりました」

 東京都内に住む大野加寿子さん(77)=仮名=は2年前に脊椎(せきつい)の手術を受け、外出時に杖が手放せなくなった。「要介護1」と認定され、訪問ヘルパーに家事や買い物の手伝いを頼んでいた。

 ところが今年4月、体の状況は変わらないのに、要介護度が「要介護1」から「要支援1」に下がった。さらに、ケアマネジャーからは「同じ敷地内に家族がいると、介護保険では訪問ヘルパーのサービスを利用できない」と言われた。

 長男夫婦は共働きのため、夫に先立たれた大野さんは日中、独居の状態。医師には「重い物を持ったり、腰を曲げたりしてはいけない」といわれており、トイレや浴室の掃除が困難。医師は認定の再申請を勧めるが、ケアマネは「要支援2になっても、家族がいればヘルパーさんには来てもらえない」と後ろ向きだ。

 「要支援1」になった大野さんは、ケアプラン作成が予防拠点「地域包括支援センター」でカバーされるようになり、ケアマネも代わったばかり。「新しいケアマネとのトラブルを避けたい」と、再申請を断念し、有償ボランティアを頼むことにした。

 「もめ事は苦手です。嫁とは仲良くしていますが、家事を手伝ってくれる気があるなら嫁から言い出すはず。私から頼んで関係を壊したくありません。私さえ我慢すれば今は丸く収まる。もし下の世話を人に頼むようになったら…と思うと安楽死を願ってしまいます」と嘆く。

                    ◇

 大野さんの生活が変わったのは、改正介護保険法の影響だ。改正の目玉は介護予防の導入。ねらいは、要介護度の軽い人に対する家事援助サービスを減らして、介護保険全体のコスト削減を図ることだ。

 介護保険は平成12年の創設以来、利用が急拡大し、給付は倍近くにふくらんだ。特に、「要支援」「要介護1」などの軽度者が多く、この層が利用する訪問ヘルパーの家事サービスなどが給付を圧迫しているとされた。しかも、「軽度者が家事をヘルパー任せにすると、生活機能が衰える」などの声もあった。

 このため、厚生労働省は「要介護1」までの軽度者について、一部を除いて「要支援1、2」に移行させた。サービス内容を予防目的にしぼり、限度額も大幅に圧縮。利用する場合にも、「家族等の支え合いや他の施策等の代替サービスが利用できない場合」と条件を厳格化した。

                    ◇

 同居家族がいる場合に、家事などの生活援助型サービスが利用しにくくなったのは、実は軽度者だけではない。「要介護1」より重い人でも、平成12年の厚生省課長通知で「家族が障害・疾病など」と、条件が示されているのを根拠に、今になってサービスを打ち切られる例が少なくない。

 介護保険の枠外でボランティア活動を行う福祉系団体の集まり「NPO法人市民福祉団体全国協議会」(東京都港区)には「同居家族がいるため、4月から生活援助がなくなった。有償ボランティアを利用したい」という声が多数、寄せられている。

 なかには、「要介護3の夫と要支援1の妻。二男が同居」「入院中の夫と要支援2の妻。娘が同居」など、家族の負担が大きい事例もある。加入団体への要請も急増しており、改正後わずか半年で人手不足が生じているという。

 同協議会の田中尚輝・専務理事は「介護の社会化を掲げて始まった制度にもかかわらず、同居かどうかで利用の可否を判断するのは間違っている。家族介護を前提とするような大きな方針転換を行うなら、国は最初の設計がまずかったために予想以上のコストがかさんだことについて一度、謝るべきだ」と批判する。

 厚生労働省は「同居家族がいるかどうかで、入り口を分けるものではない。個別の判断で(サービス利用が)可能な場合もある」(老健局振興課)とするが、現場レベルでは利用者側と十分なコミュニケーションがないまま、家族の同居を理由にした一律の利用制限が進んでいるもが、実態だ。

(2006/10/09)

 
 
 
Copyright © 2006 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.