■重み増すケアマネジャーの役割
■高齢者への配慮不可欠
介護保険法の改正で家事援助が制限され、同居家族のいる高齢者は訪問ヘルプ・サービスの利用が難しくなりました。背景には、厚生労働省と自治体に給付を削減したい思惑があると、初回でお伝えしました。しかし、行政側がサービス制限に走った原因は、一部の利用者とサービス提供者の“ルール違反”にもありそう。とばっちりを受ける高齢者を出さないよう、現場で接するケアマネジャーらの対応に配慮が求められています。(寺田理恵)
「娘は働いているので、帰宅して夕食を作り、その後片づけが終わるころにはクタクタ。娘婿は数年前に定年退職して家にいるけれど、若いころから家事をしたことがありません」
大阪府の中井善弘さん(83)=仮名=は娘との同居を理由に、訪問ヘルパーの利用を断られた。
同居といっても、中井さんと娘夫婦は、1階と2階に分かれて暮らしており、平日は食事時以外の行き来はほとんどない。浴室の掃除や、食事の支度と後片づけは、娘がしてくれるが、それ以外の家事は自分でしてきた。しかし、脳梗塞(こうそく)で倒れた後、足腰が弱り、掃除機をかけたり、高い所のものを取ったりするのが辛くなった。そこで、今年6月、初めて介護保険の利用を申請した。
審査の結果は「要支援2」。予防ケアプランを作るため、「地域包括支援センター」の職員がやってきたが、娘と同居する中井さんに、訪問ヘルプ・サービスは提供できないという判断だった。「娘が今以上に手伝うのは無理です」と言っても、事態は変わらなかった。
中井さんが「介護保険では、家族は精神的な支えのはずではなかったのか」と尋ねると、職員は「今は違います」と答え、介護保険外の有料サービスを提供する事業者の一覧表を置いて帰ったという。
「『困ったときは電話を』の一言くらいあっても良さそうなものなのに、『座って掃除機を使えるか』とまで聞かれました。あんな言い方をされてまで、介護保険を使おうとは思いません」
中井さんのケアプランは宙に浮いたままだ。
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介護保険法の改正後、中井さんのような要支援の人は、市区町村が設置した「地域包括支援センター」が予防ケアプランを作ることになった。しかし、現場では、利用者が制限を受けるケースばかりが目立つ。
介護家族を支援するNPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(東京都港区)の牧野史子理事長は現場の対応のまずさを指摘する。
「高齢者には、手伝ってほしいと家族にも言い出せず、1人で抱え込んでしまう人もいる。ケアマネジャーなどが家族と高齢者の間に入って、考えを突き合わせることが必要です。仮にサービスを入れられなくても、『お困りですね』の一言があれば、利用者の受け止め方はまったく違ってきます」という。
ケアマネジャーや行政職員らは、高齢者と家族の橋渡しになってほしいというわけだ。
「現場で接するケアマネジャーは、目の前の高齢者がヘルパーさんに来てもらえなくなることで、どれだけがっかりするかに思いをはせてほしいものです」
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もっとも、法改正で訪問ヘルプ・サービスが抑制された背景には、これまで利用者とサービス提供者の双方に、サービスの“過剰利用”があったとの見方もある。
篠?ア良勝・八戸大学専任講師は「ケアプランに書かれていない家事を頼むなど、ヘルパーを家政婦と混同する利用者は多かった」とする。
篠?ア(崎の大が立の下の横棒なし)さんが昨年、訪問ヘルパーやケアワーカー(介護福祉士)500人に行ったアンケート調査(有効回答60%)でも、利用者やその家族の「意識・態度」によって精神的苦痛を受けたという人が約80%にのぼり、最も多いのが「家政婦との混同」だった。
改正前はこうした利用が、事業者にとって都合が良かった面もある。以前は、民間事業所のケアマネが要支援者のケアプランも作成していた。ケアマネが自社サービスを使ってもらうため、必要のないサービスまでプラン化する傾向も指摘されていた。
篠?ア(崎の大が立の下の横棒なし)さんは「何でもやってあげるのが役割だと思っている人が、ヘルパーの中にもいます。ルールを破る利用者やその家族、ヘルパーがいたために、ホームヘルプサービスの利用条件が厳しくなりました。ヘルパー自身がルールを理解し、説明することで利用者の消費者教育をする必要がある。ルールを守らなければ、適切な利用をしている人がとばっちりを受けてしまいます」と話している。
(2006/10/11)