■敬遠されてサービスに差
介護保険を受ける本人ではなく、支える家族がケアマネジャーや施設などとうまくいかず、介護保険のサービスを利用しづらくなることもあります。原因は千差万別ですが、ケアマネが介護制度に精通している家族を、「口うるさい」と嫌がったり、精神疾患などの家族を、「説明に時間がかかりすぎて負担が大きい」と避ける事例もあるようです。(永栄朋子)
近畿地方に住む片岡美恵子さん(53)=仮名=は、ストレスで胃炎になるなど、体調の不調が続いている。美恵子さんを悩ませているのは、父親(81)のケアマネの存在だ。
父親は昨秋、視力をほとんど失い、要介護1になった。そこで美恵子さんは3日に一度、片道3時間近くかけて実家に行き、さらに1時間かかる病院に父親を連れて行く。だが、ケアマネとの行き違いで生じたストレスは、こうした肉体的なつらさを上回るという。
まず、デイサービスをめぐってもめた。ケアマネの勧めたデイは重度の利用者が多く、父親はなじめなかった。変更するように頼んだが、「施設を変えても文句は出る」とあっさり断られた。
そこで、美恵子さんが評判のいいデイを探し出すと、「利用者を選ぶから無理です」と言う。美恵子さんは仕方なく、直接頼みに行き、快く受け入れてもらえたという。
夕方にヘルパーを希望したときも、「子育て中のヘルパーが多いから」と断られてしまった。
美恵子さんは、乗降時のケアをしてくれる介護タクシーが父親を病院の近くまで連れてきてくれれば、送迎の負担が減ると考えたが、ケアマネは「介護タクシーは近距離しか使えません」とあっさり。ところが、美恵子さんがタクシー会社に頼むと、介護保険の対象になるのは乗降時のサービスだけで、運賃は全額自己負担だから、距離は関係ないという。
美恵子さんは制度を少しでも有効に生かしたいとサービスの変更を求めるのだが、ケアマネは自分のケアプランにケチをつけられたと受け取ったようだ。
「二言目には『美恵子さんの方が制度をよくご存じだから』とか、『嫌ならケアマネを変えて結構』と言うんです。私が自力で情報を集めたり要望を言うから煙たいんだと思います」
美恵子さんは「ケアマネ不足が騒がれていて、簡単に変えることなんかできないのに、脅迫に等しい言葉です」と憤る。
福祉サービスの現状に詳しい同志社大学の上野谷加代子教授は、「家族に知識と行動力があるので、未熟なケアマネにとっては、ありがたくない利用者なのかもしれませんね」と分析する。
利用者にすれば、「ありがたい」「ありがたくない」と選別されるのは迷惑な話だが、ケアマネとの感情のもつれは、ケアプランやサービスの質にも影響しかねない。
◇
「家族」を理由に介護サービスの提供を断られる例もある。東京都世田谷区で「ケアマネジメント駒沢」を運営する独立型ケアマネの成田和代さんは、「同じケアマネとして残念だ」とした上で、実際には家族の精神疾患、アルコール依存症など「介護能力の欠如」を理由にサービスを断られるケースも多いと指摘する。
「役所と連携しながらケアマネが中心になって対応しますが、家族への説明に労力がかかるので、負担が大きく、敬遠されるのでしょう」(成田さん)
ある家族は、ヘルパーと関係がうまく取り持てず、「ヘルパーをかえてほしい」とケアマネに求めたところ、ケアマネに「これ以上、ヘルパーは探せないので、別の事業所に頼んでほしい」と、一切のサービスを打ち切られたという。
ケアマネが、系列事業所からヘルパーを派遣する「併設型」に属していて、別の事業所にヘルパーを手配できなかったらしい。いわゆる“囲い込み”だ。
施設でも、複数の特別養護老人ホームの施設長が、事故が起きたときに厳しく責任を追及しそうな家族がいると、「何とか理由をつけて、利用者に退去してもらう」と打ち明ける。最小限の職員で重度の人をみているから、万一の事故が訴訟につながることが、一番怖いというわけだ。
◇
ただ、「私は、よそでサービスを断られた人や、いろいろ要望を出してくれるご家族の方が、やりがいがある。いい事業所に恵まれたので、私自身は困難だと思ったケースはない」(成田さん)というように、意識の高い介護職も少なくない。
上野谷教授も「どんな状況でも支えるのがプロの原則。介護は人間関係が重要だが、介護職の熟練度や家族の問題で、サービスの提供に差が生じてしまっている」と指摘。解決策として、介護職のレベルアップだけでなく、「介護する家族が孤立しないように、チームで支える仕組みが重要だ」と強調している。
現行制度で「チーム」の役割を担うのは、市町村などで新設している地域包括支援センターだが、十分に機能しているのだろうか。最終回で検証する。
(2006/10/31)