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追われる利用者(下)支援センター

事業所がサービスをためらうケースには、どんな解決策があるのだろうか…(写真はイメージです。)(撮影・大井田裕)



 ■相談・調整…にじむ限界

 介護保険は公的制度です。しかし、現実には制度の谷間になって、サービスを受けづらい人も存在します。厚生労働省はこの春、地域包括支援センターを稼働させ、こうしたケースへの対応を求めていますが、センターにできるのはあくまでも相談や関係機関との調整。解決の決定打とまでは言えないようです。(永栄朋子)

 中部地方に住む70代のある女性は、地域の介護業界ではちょっとした有名人だという。これまでにかかわったヘルパーは30人以上。ケアマネも10人近く交代した。

 女性は仕事と家庭を両立させていた30代に交通事故で重傷を負った。リハビリのかいなく、職場に復帰できず、長い療養生活の末に離婚。不安定になり、長年、病院通いをしたという。

 そんないきさつがあってか、かたくなな面があり、ケアマネやヘルパーが助言めいたことを口にすると、「そんなことを言われる筋合いはない」と怒鳴りつける。

 さらに、市やケアマネの事業所などに電話をかけ、ヘルパーやケアマネ批判を繰り広げる。関係者はみな、これに音を上げてしまう。面識のないケアマネやヘルパーまでもが、名前を聞くだけで「あの人」とわかるほどだ。

 自分でもすぐにケアマネを交代させてしまうので、結果として、次のサービス事業所がなかなか見つからず、市内の事業所を、たらい回しされるようになった。

 要介護1だが、独居で家に閉じこもりきりな上、認知症も出始めたので介護サービスは不可欠だ。

 支援困難ケースとしてかかわっている地域包括支援センターの主任ケアマネは「過去の事情や寂しさが、電話や悪口につながってしまうのでしょうね。そこを理解してチームで支援していくつもりです」と話す。

 しかし、こんな心配も口にする。

 「心理士のような専門家が必要ですが、地域には人材がいません。今は事業所の努力で、なんとか介護サービスを続けてもらっていますが、事業所が彼女に振り回されてしまうのも事実。私たちは直接、サービス提供はできませんし、地域の事業所にも限りがあるので、将来的にサービスが提供し続けられるのか不安です」

                    ◇

 地域包括支援センターは、この4月から始まった。保健師に加えて、社会福祉士とケアマネジャーが配置され、介護予防や介護相談はじめ、虐待や成年後見など、幅広い問題に対応する。

 厚生労働省は地域包括支援センターに「地域の福祉資源の情報拠点」としての役割を期待する。地域にどんなサービスがあるかを蓄積して、必要なサービスにつなげようというもので、“支援困難ケース”への対応も、重要な役割だ。

 しかし、相談したからといって、問題が必ずしも解決するわけではない。センターが担うのはあくまでも相談や関係機関との調整。実際に介護を担うのは、地域のサービス事業所だから、引受先がなければ、センターはお手上げだ。

 実際、ある市の担当者は「相談を受けても、かかわれることと、かかわれないことがある」と話す。「例えば、暴力行為があるからとたらい回しになるケースでは、暴力が改善されない限り、サービスの引受先はない。うちでは家族の思いを受け止めてあげることくらいしかできない」と、もどかしそうだ。

 厚生労働省もこうした実情は認識している。

 「地域包括支援センターはあくまでも情報集約拠点。医療機関など、しかるべき専門サービスにつなげるのが仕事で、それが解決につながるかどうかは別」と認め、「地域で対応できる技術を持った事業所やNPO法人などを探せるかどうかにかかっている」とする。

                    ◇

 こうした事態について、「介護者サポートネットワークセンター アラジン」(東京都港区)の牧野史子代表は「今は、困っている人には、相談機関しかないのが現状。しかも、相談先である地域包括支援センターは介護予防に忙殺されている。介護予防をやめ、情報集約拠点に特化させることが、回り道でも具体的なサービス提供につながるのではないか」と指摘する。

 さらに、同志社大学の上野谷加代子教授は「どのサービス事業所も現行の介護報酬では、数をこなさなければ赤字になる」と解説した上で、「困難ケースへの対応を、介護職のプロ意識だけに頼るのは無理がある。労力のかかるケースの報酬は、通常ケースよりも高く設定すべきではないか」と提案している。

(2006/11/01)

 
 
 
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