■ボタン１つで急行　施設と同じ安心感を

　夜間の転倒やトイレ介助など、連絡を受けてヘルパーが駆けつける「夜間対応型訪問介護」が改正介護保険法で新設されました。定時の訪問介護と違い、いつでも必要なときに来てくれる画期的なサービス。しかし、一般に知られていないせいか、十分に活用されていません。サービス提供地域も、一定数の利用者が見込める大都市圏に集中しているのが実情です。（寺田理恵）

　千葉県柏市のタクシー会社「北柏交通」はヘルパー２級の資格取得を入社の条件にしている。

　採用基準は「他人のおむつ交換を笑顔でできる人」。同社の運転手約７０人の半分以上が、介護福祉士かヘルパー。通院時の乗り降りの介助はじめ、在宅の訪問介護サービスを行う。

　「早朝６時ごろのおむつ交換や清拭、エレベーターのない団地の５階から寝たきりのお年寄りをおんぶして降りる介助など、難しいケースが回ってきます。断ったことはありません」と同社の松丸尚社長は話す。

　今年４月からは介護保険対象外だが、緊急通報サービスも始めた。タクシーの配車同様、３６５日２４時間対応だ。利用登録者が専用のコールボタンで連絡すると、近くにいるタクシーが駆けつける。浴室から出られなくなった女性高齢者から通報を受け、救急車より先に現場に到着して、浴槽から救出したこともあるという。

　隣接の茨城県取手市なども含め、登録者数は３００件以上だが、通報は半年間で１０件。登録するだけの人がほとんどだ。しかし、「夜間のニーズは掘り起こせばあるはず。介護保険の『夜間対応型訪問介護』はタクシー会社にぴったりのシステム」と考え、柏市の公募に応じて事業所指定を申請した。

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　「夜間対応型訪問介護」は、改正介護保険法で新たにできたサービス。市町村が整備計画をつくり、介護保険適用の事業者を公募、指定する。

　国は人口約２０万人につき、利用者が約３００人で、拠点となるオペレーションセンター１カ所が必要と想定している。柏市の人口は約３８万人。平成１９年度に、月間約３０００コール、年間約３万６０００コールがあるとして、当面、１事業所を指定する。

　公募には複数の事業所が“立候補”し、審査の結果、北柏交通は指定を受けられなかった。

　柏市は「比較的早く、事業者に参入いただき、年度内にサービスが開始できます」（高齢者支援課）とするが、一方、「人口が少ないため採算のめどが立たず、参入する事業所がなかった」という市町村も多い。もともと「夜間対応型訪問介護」は都市型サービスで、採算の合う地域が限られるのが実態のようだ。

　「夜間の在宅サービスは、地価が高くて施設を増やすのが難しい大都市部では、早くから注目されていました」と話すのは、ジャパンケアサービス（本社・東京都豊島区）の瀬戸口信也取締役。

　同社は平成１６年に国のモデル事業として、東京都世田谷区で夜間の随時訪問サービスを開始し、今年４月に「夜間対応型訪問介護」の指定を受けた。１０月以降、川崎市や文京区、品川区などでもサービスを開始、さらにエリアを拡大する予定だ。

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　世田谷区の拠点「ハッピーセンター東京西・夜間対応型訪問介護」では、看護師のオペレーター１人と訪問ヘルパー２人以上が待機。利用登録したお年寄りは体調の急変など、不安を感じたときに専用のコールボタンを押せば、看護師と会話できる。必要ならヘルパーが車で駆けつける。いわば在宅版ナースコールだ。

　サービス時間は夜１０時から翌朝７時。内容は（１）不安の解消（２）転倒やベッドからの転落（３）トイレ介助（４）おむつ交換（５）体調急変時の救急対応−など。３カ月に１度、利用者の心身状況を日中の面接で把握するという。

　「１拠点あたり登録者１５０人で事業として安定する」（瀬戸口取締役）というが、人口約８０万人の世田谷区全域をカバーしながら、登録者は約１２０人にとどまる。

　「サービスの存在がまだ知られていないが、提供地域が今後、増えるので認知度が高まるはず。重度の方が在宅で暮らすには、時間を決めた定期的なサービスではなく、施設の入居者が職員を呼ぶのと同様の随時型のサービスが必要です」と瀬戸口取締役はみる。

　高齢者の在宅を支援するサービスとしては「小規模多機能型居宅介護」も始まったが、こちらは事業者から参入が難しいという声が上がっている。次回はこの点を考える。

(2006/11/15)