特ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

365日24時間の在宅サービス(3)

 □夜間スタッフの配置

 ■実態に合わぬ国の原則

 年を取っても在宅で暮らせるよう、24時間サポートする「小規模多機能型居宅介護」が今年4月、改正介護保険法で新設されました。モデルになったのは、認知症などのお年寄りが通う「宅老所」。地域の一軒家などで少人数を対象に、家庭的なサービスを提供してきました。小規模多機能の指定を受ければ、介護保険でカバーされる範囲が広がります。しかし、宅老所や規模の小さい事業所からは「条件が厳しい」と、指定をためらう声が上がっています。(寺田理恵)

 「国の基準は、実態に合っていません。特に、夜間は『泊まり』の利用者と、訪問介護に対応するために職員2人を配置しなければなりません。これでは人件費がかさみ、やっていけません」

 兵庫県川西市で地域福祉活動や介護保険事業を行うNPO法人「さわやか北摂」の久恒千里理事長が話す。「小規模多機能型居宅介護」の制度化を待ち望んでいたが、「夜間は2人体制」の条件に、あきらめ顔だ。

 川西市は大阪のベッドタウンとして開発が進んだ。「さわやか北摂」のある一帯も、区画整理された戸建て住宅の街並みが広がる。開発から約40年が経過し、高齢化率はすでに30%を超す。

 「さわやか北摂」は、ボランティア会員約500人の助け合い活動で、介護保険でカバーされない庭の手入れやペットの世話なども含め、生活全般をサポートしてきた。また、介護保険で日中のデイサービスと訪問介護も提供する。デイの利用者は多い日で12人。少ない日でも、近所のお年寄りが自費で遊びにくるなど、地域に根付いた小さな事業所だ。

 介護保険法の改正を前に、国が「通い(デイサービス)」を中心に、「訪問」「宿泊」を組み合わせた「小規模多機能型居宅介護」を創設する方向へ動き出したとき、久恒さんはこの制度に期待した。「通って、泊まれて、短期間住める支援があれば、家族や友人に囲まれたまま、豊かな在宅生活を地域で続けられる」からだ。

 昨年夏、広い民家を近くに借り、介護保険対象外で宿泊サービスを始めるなど、準備も整えた。

 ところが、新制度のハードルは高かった。利用登録定員は最大25人に過ぎないのに、夜間も常駐職員が必要。これでは、人件費がかさんで運営が成り立ちそうもない。「今も、要望があれば夜間の訪問はしますが、夜10時以降は使う方がいないのが実態です」と久恒理事長は話す。

                  ◇

 「小規模多機能型居宅介護」は、中重度の要介護者の在宅の暮らしを、24時間支援する機関として作られた。通い、泊まりなどのサービスを、同じスタッフが1カ所で提供することで、認知症のお年寄りも混乱をきたさずに済む。このため、利用者の日常生活圏ごとに設置されることが望まれている。

 モデルとなったのが、「宅老所」だ。これまで宅老所のサービスのうち、介護保険でカバーされるのは、「通い」など、一部だったが、小規模多機能型では、登録者の要介護度に応じた定額報酬が支払われる。

                  ◇

 しかし、既存の宅老所など、小規模事業所からは、転換をためらう声が上がる。理由の1つは、国の指定基準を満たすのが難しいことだ。

 なかでも、夜間の人員配置は、「宿泊」の利用者が1人でもいれば、訪問サービスに対応するスタッフも含め計2人が必要。「2人体制は困難」との事業所側の声をうけて、厚生労働省も9月に基準を緩和。「宿泊」利用者のための夜勤者が1人いれば、当初、訪問対応の職員1人は条件付きで自宅待機でもよいとした。

 高橋誠一・東北福祉大学教授(高齢者福祉)は「既存の宅老所はほとんど、『通い』がメーンなので、夜間スタッフの配置が難しい。ただ、今はニーズが低くても、365日24時間の介護を担保するには、夜間の対応が必要だ」とする。

 指定を受けた事業所は半年で全国約200カ所にとどまる。背景には、制度面での制約が多いことがありそうだ。事業所側からは夜間の人員配置以外にも、「緊急のショートステイなどで医療サービスが必要になっても、手当てが難しい」「人数確保が難しいうえ、利用希望者は要介護度の低い人が多く、介護報酬も低くなる」など、さまざまな課題が指摘されている。「さわやか北摂」も結局、「人数確保が難しい」と、転換の申請を見送ることにした。

 次回は、やはり転換を迷う宅老所の事例を紹介する。

(2006/11/16)

 
 
 
Copyright © 2006 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.