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365日24時間の在宅サービス(4)

 ■新制度の課題 宅老所の熱意、補えるか

 「施設から在宅へ」の方向が打ち出される中、宅老所をモデルに「小規模多機能型居宅介護」が制度化されました。しかし、既存の宅老所が転換するには、利用者やスタッフの増員など、課題が多いようです。こぢんまりとした規模だからこそできた、きめ細かなサービスが新しい制度の下で続けられるのか、問われています。(寺田理恵)

 NPO法人「宅老所・光明の家」(兵庫県宝塚市)は、2階建ての民家でデイサービスや訪問介護を行う典型的な宅老所だ。駅から徒歩10分。小さな看板が周囲の住宅にとけ込んでいる。

 「この家を借りたのは、風通しと日当たりが良く、商店街やスーパー、公園にも近いから。認知症の女性は買い物に行きたがるんですよ。昔、買い物かごを提げて通ったように。宅老所の役割は在宅支援。生活の延長にここがある」と平眞弓施設長が話す。

 利用者18人のうち16人が徒歩圏に住み、デイサービスに通ってくる。介護保険報酬はデイ最長の「6時間以上8時間未満」が算定される。しかし、「光明の家」のデイは午前7時から12時間対応。1人暮らしや認知症の利用者が多く、家族がいる高齢者も日中は1人とあって、夕方の延長利用が多いからだ。土、日曜もニーズがあるので、サービス提供する。

 スタッフは送迎時に自宅で就寝の世話や洗濯、掃除をすることもある。介護保険でカバーされない“すき間”は、事業所の持ち出しだ。

 「生活に踏み込んだケアを行っています。そうしないと、在宅は支えられない。自宅では夜、寝るだけという人もいます」。徘徊(はいかい)や高齢者虐待の緊急保護など、夜間の急なニーズにも応えてきた。「小回りが利く」と平さんは言うが、有志の勉強会が開所に至っただけあって、スタッフの熱意に支えられているといえそうだ。

 利用者が家族やなじみの人間関係を維持できるよう、本人や家族、ケアマネジャーとも緊密に連絡を取る。「お年寄りは、本当は子供の所に帰りたい。私が家族と電話で長時間、打ち合わせることも多いですね」と平さん。自治会や老人会の行事にも参加し、地域社会とかかわりを持つ。

 宅老所は約20年前に始まった。介護保険など、ない時代だ。利用者は民家を改造した“もう1つの家”に通い、介護度が重くなれば、「宿泊」や「訪問」サービスを利用し、在宅が困難になれば「居住」へと、状況に合わせたケアを受ける。多くは登録に相当する利用者が15人程度で「通い(デイ)」が日に10人程度、「宿泊」が3〜5人と小規模だ。

                  ◆◇◆

 改正介護保険法の新サービス「小規模多機能型居宅介護」はもともと、宅老所がモデルだ。しかし、平さんたちは、新サービスの指定申請をためらう。

 「光明の家」では、デイサービスと訪問介護の一部が介護保険でカバーされる。介護報酬は月220万〜230万円。利用者の自費になる「宿泊」なども加えて、収入は月間計約250万円だ。

 「小規模多機能型居宅介護」の指定を受ければ、現在の利用者18人として、介護報酬は350万〜360万円に増える。

 しかし、現在でも、人件費が支出の70%を占めるのに、新制度ではケアマネ1人を配置するなど、人件費の負担も増える。国の基準では、登録者は最大25人、デイ1日15人。一回り小さい「光明の家」で採算がとれるのか、見通しが立たない。

 しかも、指定を受ければ、利用者はほかの事業所から受けているサービスを使えなくなる。

 現在の利用者18人とその家族にアンケートを行ったところ、回答のあった12件のうち、ケアマネ変更に躊躇(ちゅうちょ)する利用者・家族が4件あった。「時間をかけて関係を築いたヘルパーをかえることに、不安を感じる家族もいます。指定を申請するかどうか、理事会で議論しているところです」

                  ◆◇◆

 宅老所に詳しい全国コミュニティライフサポートセンターの池田昌弘理事長は「転換した宅老所では、ほかのサービスを使えなくなるなどで、利用者が減っている」と指摘し「国の基準は宅老所としては大きく、家族介護で不足する部分を補うヘルプが質的に保てるか疑問が残る」という。

 しかし、一方で「施設に入ると、社会から葬られかねないが、在宅なら家族や友達との関係が保てる。『小規模多機能型』も多様な使い方をすれば、宅老所モデルとは違った支援が生まれる可能性もある」と、期待する。

 在宅支援に不可欠とされる24時間サービス。しかし、“すき間”を支えてきた熱意を、制度として整備するには、課題はまだ多いようだ。=おわり

(2006/11/17)

 
 
 
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