■「自治体で差」に不満
要介護度の低い高齢者に提供される身体や家事のサービスー。散歩の付き添い一つをとっても、ある自治体では認めるのに、別の自治体では禁止など、差が大きいのが現実です。国が定めた介護保険のメニューなのに、自治体によって差が出ることに、事業者や利用者から「不公平」「わかりにくい」などの声も上がっています。(永栄朋子)
「ヘルパーの散歩の付き添いは、認められていないはずですが…」
10月30日付の本欄で認知症の男性が暴力行為を理由に、ヘルパーに散歩の付き添いを断られた例を取り上げたところ、東京都内のケアマネジャーから問い合わせをいただいた。同様の指摘は、昨春も目黒区の読者から寄せられた。
実は、介護の必要な高齢者が、ヘルパーさんに散歩に付き添ってもらえるかどうかは市町村ごとに対応が異なる。
兵庫県西宮市や奈良県天理市は「カラオケなど趣味の場に付き添うのはだめですが、通常の散歩なら問題ありません」(西宮市)と、おおらかだ。
札幌市や大阪市は、リハビリや引きこもり防止のためなら認める。仙台市や東京都武蔵野市も、医師の判断があればOK。
一方、厳しいのは目黒区や江戸川区、横浜市など。「リハビリや機能訓練はヘルパーの仕事ではない」(横浜市)「散歩は娯楽。娯楽は保険対象外」(目黒区)という。
同居の家族がいる場合に、家事サービスを提供するかどうかも、判断が分かれる。
今年6月、東京都文京区のケアマネジャーらに衝撃が走った。区から示された指針に「通える範囲に家族が住んでいる場合は、同居と同じ扱いをする」と書かれていたためだ。
ケアマネジャー、守山加奈子さん=仮名=は「前はここまで厳しくなかったのに」と絶句する。担当しているパーキンソン病の利用者は、娘が都内の他区に住んでいる。通ってくるのは週に1回。「買い物ができないので、ヘルパーがしていたのですが…。家族が通える範囲に住んでいれば、文京区では同居とみなすなんて、他区と比べて不公平じゃないでしょうか」と首をかしげる。
一方、神戸市や大阪府豊中市は「同居の有無は関係ない」とする少数派。「同居の家族がいる場合は、原則使えない」という市町村が多い。
とはいえ、「家族が仕事で日中独居となる」ケースで、例外的にサービスを認めるかどうかは判断が分かれる。仙台市や横浜市は認める。東京都杉並区や江東区などは「調理はいいが、掃除や洗濯は家族がすべき」と、対応が分かれる。
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自治体でサービス提供に差が生じていることについて、厚生労働省は「現場の自治体判断に任せているので、特に問題はありません」とする。
判断が分かれる背景には、自治体ごとの財政事情もあるようだ。
散歩の付き添いの単価は約4000円(30分以上1時間未満)。家事サービスは約2000円(同)。9割が公費だ。
文京区は原則禁止の理由を、「介護保険料の利用者負担の上昇を抑えるため」と説明する。同区の年間介護保険料は、制度発足時より2万円上がり、約5万5000円。「これ以上、保険料が上がると理解を得られない」(同区介護保険課)と懸念する。
どこも、制度存続のため、なんとか削れるサービスを探し、給付を削っている格好。
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だが、利用者から「同じ保険料を払っているのに、同居の有無でサービス量が変わるなんて…」「厳しすぎではないか」など、非難の声も上がる。
龍谷大学の池田省三教授は「介護保険は社会保険。二世帯同居や家族の仕事の有無で、受けるサービスに差がでるのはおかしい」と指摘する。「年金でたとえるなら、家族と同居している高齢者は、生活費負担が軽いからと年金額を減らされるようなものだ」。
自治体の対応がバラバラなせいで、都道府県には、事業者や利用者から「統一基準を示してほしい」との要望が寄せられる。市町村からも削りはしたものの、「住民に説明するのが難しい」と弱音がもれる。
このため、都道府県単位で統一的な基準を作ろうという動きも出てきた。奈良県では、市町村の担当者レベルで研究を進めている最中。同県長寿社会課は「ある程度、県として何らかの基準を作った方が現場もやりやすい。もちろん最終的な判断は保険者に任せます」と話している。
(2006/12/04)