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軽度者のサービス(中)家政婦扱いに現場困惑

 ■拒否で仕事失うケースも

 介護保険のヘルパーは家政婦ではありません。しかし、利用者の中には大掃除など、禁じられている仕事を求める人も珍しくないのが現実。断られると、ヘルパーや事業所を変更する人もおり、事業所の中には違反を承知で引き受けて顧客獲得を目指すところもあります。まじめな事業所ほど、仕事が減る状況に、現場からは「やってられない」との声がもれます。(永栄朋子)

 横浜市のヘルパー、佐藤明美さん(40)=仮名=は、「ヘルパーの仕事って何?」と考え込んでしまうことがある。介護保険のルールを守って仕事をすると、職を失いかねないからだ。

 介護保険は公的サービスだから、サービス提供には制限がある。「自立支援」が理念だから、ヘルパーは利用者ができることには手を貸さない。サービス対象は高齢者本人だから、家族へはサービスできないし、大掃除や犬の散歩など、日常生活に不可欠でないサービスも、給付の対象外だ。

 だが、佐藤さんは「網戸の掃除に床のワックスがけ、同居の息子の食事や洗濯…。禁止事項をここぞとばかりに頼んでくる人も多い」と嘆く。

 高齢でヘルパーの仕事の範囲が理解できない人もいるが、中には「事業所には内密にね」と頼むケースも。特に、息子が同居する高齢女性の場合、「百%、息子の分も頼まれる」という。

 断れば、「優しさがない」「気が利かない」と、ケアマネジャーや事業所にヘルパー変更を求められることも。

 「ケアマネジャーは、事業所の売り上げが減ると困るので、見て見ぬふり。多くのヘルパーは『仕方がない』と、家政婦代わりに働いています」(佐藤さん)

 東京都江東区のヘルパー事業所「あいさぽーと江東」の責任者、三上章代さんも同じ問題に悩む。特に難しいのは、利用者がマンションや団地に住んでいる場合だ。

 集合住宅の口コミ力はすさまじい。どの事業所がどんなサービスをするか、うわさはすぐに広まる。この事業所では、利用者から「お隣のヘルパーさんはしてくれるわ」と共用廊下やベランダの掃除を要求された。「介護保険ではできない」と説明すると、事業所ごとかえられたという。まさに、「悪貨が良貨を駆逐する」事態。

 「結局、利用者にとっては何でもやるのがいいヘルパー。でも、利用者の自立を目指して、ルールを守る事業所が仕事を失うなんておかしい」と、やりきれない様子だ。

                  ◇

 不正なサービス提供、利用は、ルールを守る利用者と事業所に不公平なばかりでなく、給付費の膨張、保険料の引き上げを招きかねない。

 厚生労働省老健局振興課の遠藤征也補佐は、一部でルール違反が生じていることを認め、「特に事業所が競合する地域では、利用者も楽だからと、ヘルパーを家政婦代わりに使っている実態があるようだ」とする。

 こうしたサービス利用は軽度の利用者で生じがち。重度の利用者は家事サービスよりも、オムツ交換など、身体援助のサービスを求めるからだ。

 国がこの春から軽度者の予防プランを、公的色彩の強い「地域包括支援センター」に作成させるようにしたのも、一つにはこうした不正を防ぐ目的があったという。

 さらに、これまで都道府県だけが行っていた事業所の立ち入り検査の権限を、市町村にまで拡大。事業所が指定取り消しを受けた場合、5年間は介護業界に復帰できないようにもした。

 遠藤補佐は「本来、ケアマネジャーが専門職として適切なケアプランを作成し、市町村が不正を働く事業所を適正にチェックすれば、こうした問題はありえないことなのですが…」とする。

                  ◇

 介護保険給付費の膨張に頭を痛める市町村にとって、不正の摘発は差し迫った課題だ。奈良県天理市では市内の全事業所から利用者のケアプランのコピーを提出させ、毎月、チェックする。

 しかし、市の担当者は「ケアマネジャーは事業所の従業員だから、介護保険の理念よりも事業所の売り上げを優先する。書類に不備はないし、不正を見つけるのは限界がある」と話す。

 同市では最近、内部告発で深刻な事案が発覚した。ケアプラン上は高齢者宅で調理や掃除などの家事援助をしているはずのヘルパーが、利用者をスーパー銭湯に連れて行っていたのだ。しかも、ヘルパーは利用者の娘。

 担当者は「ヘルパーの仕事は家の中で行われる。まさか銭湯に連れて行っているとまでは思わない。一軒一軒、確かめて歩くわけにもいきませんし…」と、お手上げの様子。

 「事業所を開くには、人員基準を満たせば済む。それに対して、不正の内部告発があっても、証明するのは難しい。事業所の指定取り消しがほとんど、できないことも問題ではないでしょうか」と話している。

(2006/12/05)

 
 
 
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