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いつまでも口から食べるために(上)

 ■食事の楽しみ 生を実感、生きる力に

 いつまでも口から食べられるよう、口の中のケアを重視する介護施設が増えています。食べることは、生きる力につながります。介護保険にも昨年4月から、口腔(こうくう)機能を高めるサービスが導入されるなど、口腔ケアの効果が期待されています。(寺田理恵)

 体の機能が衰えた高齢者にとって、大きな楽しみは食事。街のざわめきや四季のうつろいなどの刺激が届きにくい施設の中でも、食べることが五感を働かせる。

 特別養護老人ホーム「山吹の里」(東京都豊島区)では、「生きていることを実感してもらいたい」と、できるかぎり口から食べてもらっている。

 入所者のある女性(82)は「焼きそばや温かいうどんが好きですね。食いしん坊なので、一番の楽しみは食事。歯磨きをして、きれいにしていた方が気持ちよく食べられます。好き嫌いなく食べているから、めったにかぜをひかない」と、献立表のチェックを欠かさない。

 朝夕は鼻に通したチューブから栄養を取る女性(80)も、昼食時にはムース状の高カロリー食を口から食べる。会話はできないが、甘い物には積極的に口を開けるので味覚はあるようだ。コーヒー味やバニラ味など、味付けの違いが味覚を楽しませるのか、食べ残しがないという。

 「ムースやミキサー食、刻み食から軟飯軟菜、常食へと、なるべく形のあるものを食べていただきたい。食事には、見たり、においをかいだりする楽しみもある。何だか分からないものよりも、魚や肉と分かる方が楽しみが増す」と職員。

 要介護度が重くなると、口を動かしたり、飲み込んだりが難しくなる。食べ物が誤って気道に入る「誤嚥(ごえん)」が、肺炎につながる危険もある。そのため、調理では形状を入所者それぞれに合わせる。

 入所者81人のうち12人が、胃や鼻にチューブを通して栄養を取っているが、誤嚥の危険性が低い人には口からも食べてもらっている。

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 口から食べる喜びを支えるため、「山吹の里」では歯科と連携をとって、5年ほど前から口腔ケアに取り組んでいる。食べ物が口の中に残っていると、誤嚥性肺炎を起こしかねないため、食後には必ずケアを行う。食前に、冷水のアイスマッサージで口腔を刺激し、口の機能を目覚めさせ、働きをよくしてもらう人もいる。

 食べる楽しみを忘れないよう、週1回すしを出し、月2回は民家の台所を借りて調理も楽しんでもらう。こうした取り組みによって、「体調を大きく崩さない」(根上加壽代施設長)など、効果も上がっているという。根上施設長は「身体状況に制約が増えるなか、最後に残る楽しみは食事。特養は生活の場ですから、季節を感じられる食材をおいしく召し上がっていただくことで、生きていると実感してもらうことが大事です」と話す。

 同施設では、併設のデイサービスで通所の高齢者を対象に、「口腔機能向上プログラム」も実施し、唾液(だえき)の出方やかむ力などが向上している。しかし、ケアが入所者ほど頻回でない分、効果は見えにくいようだ。

 「在宅でデイに通ってくる方に、口腔に意識が向いていない傾向が多少みられます。入れ歯になると、入れ歯は洗っても口の中をきれいにしようという意識が薄くなりがちで、検診を受けてはじめて口腔の様子を家族が知るケースが少なくない。ほおの内側の食物残渣(ざんさ)や舌苔(ぜつたい)がにおいのもとだと気づいていないのが実情です」と根上施設長は指摘する。

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 東京都杉並区の杉並保健所地域保健課に勤務し、介護現場にも詳しい歯科医師の岡田弥生さんは「口は食べる、話す、表情をつくる−など、生活に欠かせない働きをする。高齢者への口腔ケアは、こうした口の役割を考えながら行うことで『生活の質』を向上させる」とし、「生活の中の口腔ケア」を重視する。

 改正介護保険法では昨年、通所サービスに「口腔機能向上」が導入された。しかし利用が見込まれるのは、主に要介護度の軽い「要支援者」や、要介護認定を受ける手前の「特定高齢者」。岡田医師は「生活の質の向上と誤えん性肺炎の予防という観点で、より大きな効果が期待できるのは要介護3よりも重い高齢者。重度の人が利用する機会を増やす必要がある」と課題を挙げている。

(2007/01/15)

 
 
 
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