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要介護認定は適正か?(下)慢性疾患などで要支援

 ■自治体の福祉で対応を

 介護保険法が改正され、全盲をはじめ、パーキンソン病や人工透析などの慢性疾患、独居の人の要介護度が低く認定されているのでは−との声が上がっています。これが深刻なのは、こうした人が「要支援」に判定されると、病院や外出の介助が受けられないケースが増えているからです。要介護度は本当に一部の人で低く出るのでしょうか。(永栄朋子)

 関西地方のケアマネジャー、大橋健二さん(48)=仮名=は「私の担当している全盲で独居の男性は要支援2。判定が厳しすぎると思う」と憤る。

 全盲の男性の認定調査を担当したのは、大橋さんだ。男性は慣れた家の中では生活できるため、調査書の項目はほぼ「自立」にチェックされる。大橋さんは特別な事情を記す欄に、男性は目が不自由だと記載した。

 だが、それが反映されるかどうかは微妙だ。「実際に1人暮らしができているので、認定審査会で全盲であることをくみ取ってもらうのは難しい。ほかの要支援2の人より、明らかに生活の困難度は高いのに…」

 特に困るのは通院や外出。男性の住む市では、ヘルパーの付き添いは、要介護1以上の人にしか認められないからだ。

 この市では人工透析患者にも要支援2が出て、介護タクシーの乗降介助が使えず、問題になっているという。大橋さんは「介護保険の要介護度認定は、外出を想定していないのでしょうか」と、首をかしげる。

 一方、東京都内のケアマネ、森川祐子さん(53)=同=は「パーキンソン病で独居の人は震えながら歩いているのに、要支援2。ひとりでバスに乗れるような人と同じ要介護度です。おかしくないですか」と、腑に落ちない様子。

 ある区で認定調査員を務める森川さんは「調査書のチェック項目が少なすぎるからだと思う」と指摘する。たとえば、歩行能力をみる項目では、5メートルの距離を「歩ける」「歩けない」「何かにつかまれば歩ける」の3つから選ぶ。しかし、それでは選択肢が少ない、というわけだ。

 「震えながら歩く人もいれば、元気に歩く人もいる。同じ『歩ける』でも、個人差は大きい。それを反映しないのは疑問です」

                  ◇

 同じような声は、認定審査会の委員の間からも上がる。都内のある認定審査会の委員は「歩けないのに、コンピューター判定では『要介護1相当』と出る。信じられない」と資料を示す。

 これに対して、要介護認定の判定基準作成に携わった国立保健医療科学院の西村秋生さんは資料を見た上で、「歩けない場合、移動や歯磨きなどでも、介助が必要だろうと予想される。しかし、この人は移動も着替えもできている。車いすか何かで工夫しながら、自立した生活を送っている方なのではないでしょうか」と分析する。

 介護保険の理念は自立支援。チェック項目が「できる」「できない」「助けがあればできる」しかないのも、時間がかかっても、自分でできるかどうかが重要というわけだ。

 「医師は病気の症状を、福祉関係の人は障害の重さを尺度にしてしまう。でも、重症度と、その人が自立した生活をするために必要な手助けの量は必ずしも一致しない。『かわいそうだから介護度を上げるべきだ』との声はあるが、時間がかかっても、高齢者が自分でできるなら、それは自立した姿として美しい形ではないでしょうか」と話す。

                  ◇

 実は制度発足当初から、判定基準における「自立」の解釈は変わっていない。それなのに、なぜ、今改めて、医療や福祉などの関係者から要介護認定に対する疑義が出るのだろうか。

 西村さんは「法改正で、要支援か要介護かによって、ある種のサービスが使用できなくなったことが大きい」と認める。今まで通院や外出の介助を受けていた「要介護1」の人が、新しいカテゴリーの「要支援2」に振り分けられ、自治体によっては従来サービスが使えなくなったところも。福祉用具も使えず、問題が目立っているのではないかというわけだ。

 要介護度は本来、サービスの給付額を決めるもの。しかし、今は使えるサービスまで決めてしまう。

 だが、「要支援」と判定された人でも、慢性疾患などで通院介助を必要とする人はいる。龍谷大学の池田省三教授はこの点を指摘した上で、「本当に困る人がいるのも事実。ただ、そういう人は決して多くない。全体の給付枠を広げて介護保険で解決するのではなく、自治体の福祉サービスで救済方法を考えるべきだ」と話している。

(2007/01/31)

 
 
 
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