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【ゆうゆうLife】家族がいてもいなくても(7)夫のUターン単身介護

 定年後は、仕事をすっかりやめて田舎に帰る!と知人が宣言する。今年、60歳になる団塊世代の男性である。

 「ふーん、夫婦で夢の田舎暮らしなのね」とうらやんだら、な、なんと、妻と娘は自宅に残して1人で帰るのだとか。

 実は、80代の彼の母親が、目下、東北の過疎地で独り暮らし。さすがにもう放ってはおけないが、家族の居る東京の自宅には引き取れない、妻に遠距離介護は頼めない。まして、親の介護のために一緒に田舎に住んでくれよ、とはとてもとても…。

 「妻は都会派で、田舎暮らしは、無理。介護観も違っていて、この核家族時代に嫁がしゅうとめを介護するのはおかしい、介護は社会化されるべきだって主張しているし」

 かくして、残る選択は、ただひとつ。自分が1人で田舎に戻って母を看(み)る、ということ。

 単身赴任ならず、男の単身介護赴任。もし、妻や娘に反対されたら、離婚してでも、と思っている。

 なんとも悲壮な覚悟だが、当人はなぜかうれしそう。

 実は、どうも介護を「大義名分」にして、母親の元に戻って田舎暮らしができるのを楽しみにしているらしいのだ。

 よくよく聞けば、80代半ばと言っても、彼の母親は、まだ元気。炊事もできれば、畑仕事もやっていて、なにかと頼りにもなる。彼が車の運転や買い出しさえすれば、過疎地での田舎暮らしがまだふたりで続けられそうだと言う。

 つまりは、お互いの利害が一致している。

 そういえば、以前、70代の女性が言っていたことがある。夫がいる間は寄り付かなかった息子が、夫が亡くなったとたん、「独り暮らしの母が心配で…」と毎週末に来て泊まっていくようになったとか。

 「でもね、なんにもしないの。ゴロ寝でテレビを見てるだけ。私が、ご飯作って食べさせるのだけれど、このまま息子が熟年離婚して戻ってきたらどうしよう」

 思えば、私の同級生の女性たちには、夫の母の介護のために田舎についていきそうな妻は皆無だ。おまけに、定年後の夫に3食昼寝つきを許しそうにもない。

 かくして、団塊世代の怒濤(どとう)の定年後には、男性たちの故郷へのUターン単身介護がぐんと増え、過疎地の活性化に大きく寄与することになるかも。

 どんな美談の背後にも、よくよく聞けば、決まってそれなりの訳があるもののようだ。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2007/02/23)

 

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