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介護保険のなぞ(上)

 編集部には、読者からの介護保険に関する疑問や、個々のサービスについて「自治体間の解釈が違うのはおかしい」などのご意見が、お手紙などで寄せられます。今回は、そうした読者の「なぞ」の背景を探ります。(永栄朋子)

                   ◇

 【読者の質問】

 ■短時間で来てくれるヘルパーはいない?

 ヘルパーさんにお掃除を頼んでいます。うちは狭いので40分もあれば十分なのに、2時間も滞在されます。その分、自己負担もかかりますし、早く帰ってほしいのですが、ケアマネさんは「短時間で来てくれるヘルパーさんがいない」と言います。そういうものなんでしょうか?

 ■利用者にも自衛策必要

 東京都の高岡幸子さん(74)=仮名=は、要介護5の夫(78)を自宅で介護している。夫は脳出血で倒れ、数年前から寝たきりだ。

 介護を手伝ってくれる身内はいない。高岡さんも要支援2なので、介護保険が頼りだ。

 「主治医に『あんまり無理をすると、ご主人より先にあの世に行くぞ』といわれちゃって…」

 夫の昼食介助と週に1度の掃除はヘルパーに頼る。ほかに入浴サービスと、医師や看護師の訪問もある。

 高岡さんは現状のケアプランに、ほぼ満足している。例外は、掃除を頼んでいるヘルパーの滞在時間が長いことだけだ。掃除してもらうのは、1階の居室と水回りだけだから、「40分もあれば十分」。だが、ヘルパーは2時間も滞在する。

 「1時間では短すぎてヘルパーさんが来てくれないから、夫と私の介護保険を1時間分ずつ使うとのことでした」(高岡さん)

 掃除が終わると、することがないから、いつも1時間以上、ヘルパーとお茶を飲んで時間をつぶす。「お菓子の用意も大変だし、何より狭い部屋に長くいられると気疲れします」と、高岡さんは困り顔だ。

                   ◇

 必要以上のサービスを提供される例は珍しくない。背景には、ヘルパーと事業所の利益の一致がありそうだ。

 ヘルパーは移動が欠かせない仕事だが、移動時間はめったに給与に反映されない。「実働給に含む」とする事業所や「所要時間に関係なく、一定額を支給する」などの事業所はあっても、賃金が移動時間に比例するわけではない。ヘルパーが訪問先で長く働きたいと思うのは、自然な欲求ともいえる。

 しかも、ヘルパーがサービスを長時間提供すれば、事業所も利益アップにつながる。ケアマネが同じ系列の事業所に属していると、利害が一致するから、利用者を言いくるめてサービスを提供する例もあるようだ。

 大手ヘルパー事業所に勤めるヘルパー、田口ゆかりさん(38)=仮名=は自身の属する事業所や系列ケアマネのすることをはたで見ていて「利用者をカモにしているとしか思えない。ひどいやり方です」と憤慨する。

 田口さんは「町中で『ヘルパーがいない』なんて、事業所の口実。特に、介護認定者が2人以上いる世帯は、高い介護報酬を取る絶好のターゲットです」という。よくある手口は、伝票を2人分切る“2枚切り”という方法だという。

 介護保険では、サービス時間が長くなるほど、単価が下がる。同じ2時間働くなら、請求を1時間ずつ2人分にすれば、単価は上がる。

 実際、高岡さんのケアプランでは、要支援2の妻と要介護5の夫の2人に、2時間分のサービス料として、合計約6000円が請求されていた。高岡さんが求める短時間サービスなら約2000円で済んだところだ。

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 もちろん、こんな事業所ばかりではない。横浜市のヘルパー、上川礼子さん(64)=仮名=は時給1200円。移動の時間は換算されず、交通費は実費支給という条件で働く。

 週に1度、認知症の高齢者夫婦宅に通う。実働は1時間だが、立地条件が悪く、往復に2時間近くかかる。拘束時間で換算すると、時給400円弱になってしまう。

 近くに住む家族は介護に非協力的。心臓病を患う夫は下の世話もあり、1日に何度もヘルパーが必要。だから、各回は短時間を求められる。

 「ほかの仕事より大変なのに、お金にならず、労働意欲を維持するのが難しい」と、嘆く。

 「今日こそ辞めよう」と思って1年が過ぎた。それでも、いまだに通い続けているのは、代わりに引き受けるヘルパーがいないからだ。

 複数のヘルパーが「短時間の仕事なら、狭い範囲で訪問件数を確保する。相手先まで移動時間がかかるなら、短時間の仕事は引き受けない」と口をそろえる。

                   ◇

 こうしたヘルパー側の事情も考慮し、事業所も工夫を凝らす。岐阜県の新生メディカルは「1人のヘルパーに負担がかからないよう、条件の悪い家庭にはチームを組んで対応する」という。

 特に、掃除や食事などの生活援助サービスは際限がないから、別の枠組みが必要との声もある。NPO法人「医師団が支える在宅ケア推進ネットワーク」の金井純代事務局長は「介護保険は、民間がサービス提供するから、市場原理が働いてサービス過剰になる。生活援助は、自治体のごみ収集のように、介護保険とは別の公的サービスを整える必要があるのではないか」と指摘する。

 冒頭のような、悪質な事業所もあるが、「事業所側もそういうことができる相手と、できない相手を分けてサービスする」(田口さん)という。

 利用者も介護保険の細かな仕組みは分からないので、本当は限度額内でも、「おじいちゃんの分だけだと、限度額を超えてしまうから、おばあちゃんの分も使いましょうね」と言われると、納得してしまうという。利用者側も、求めた内容とかけ離れたサービスだったり、納得できない場合は、別の事業所や自治体に問い合わせてみるなどの自衛策を講じることが必要かもしれない。

(2007/03/13)

 

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