【読者の質問】
■ボランティアに肝心な仕事は任せられない?
子供たちも独立し、時間に余裕ができたので、近所の特別養護老人ホームでボランティアを始めました。しかし、与えられるのは単純作業ばかりで、介護では何の役にも立てていません。介護業界は人手が足りないそうですから、もっと融通を利かせたらいいと思うのですが。
■資格持つ有償パート歓迎
東京都の足立弘子さん(57)=仮名=は、2人の息子の独立をきっかけに、自宅近くの特別養護老人ホームでボランティアを始めた。
仕事は洗濯物たたみや清拭に使うお手ふきや、お茶の用意など。お年寄りの話し相手はするが、体に触れる行為は一切、禁じられている。手助けの必要があれば、職員を呼びに行く決まりだ。
足立さんにはこれが納得できない。「施設は、ボランティアをもっと臨機応変に使ったらいいと思うんですよ」と話す。
というのも、お年寄りの中には、足立さんを職員と勘違いし、手助けしてもらえるものと期待して、不意に立ち上がろうとする人もいるからだ。そのたびに足立さんは「立っちゃだめ。待ってて」と、職員を呼びに走る。
「『これくらいなら大丈夫』と思っても、施設では手を貸せない。でもここが街中だったら、手を貸さない方が冷たいでしょう?」(足立さん)
施設では、ヘルパー2級の資格取得のために来る研修生にも、お年寄りの体には触れさせない。職員の介護を見学させるだけだ。
「人手が足りないなら、『触るな』というより、ボランティアにも安全な方法を教えて、力を借りればいいのに…」
足立さんは釈然としない様子でそう話す。
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しかし、身体介護について、特別養護老人ホームの施設長らは「素人には任せられない」と口をそろえる。ささいなことが、高齢者の骨折などにつながりかねず、そうなれば、施設だけでなく、ボランティア本人の責任も問われかねないためだ。
NPO法人「特養ホームを良くする市民の会」(東京都新宿区)の本間郁子理事長は「特養は人の命を預かっているので、ボランティアに頼れる部分と、頼れない部分がある」と指摘する。身体介護については「水を飲ませるのでも、飲み込みがうまくいかない人の手助けには危険が伴うし、認知症の人は不意な動きもする。そうしたリスクは技術や知識がないと、避けられない」と、否定的だ。
一見、誰がやっても差がなさそうに見えても、ボランティアが歓迎されない部分もある。
兵庫県内の特養で生活相談員を務める竹内梓さん(27)=仮名=は「本当はシーツ交換や食事の介助を手伝ってほしい。でも、シーツの敷き方、枕の置き場所にも決まりがある」と話す。
たとえば、シーツならヨレを防ぐために端を「三角折り」にし、しわは厳禁。枕は出入り口から布の折り返しが見えない、といった具合だ。「シーツのしわは、皮膚の弱っているお年寄りには、じょくそうの原因になるんです」と解説する。
ボランティアの顔ぶれが同じなら、施設側も、やり方を教えて、覚えてもらうことができる。しかし、ボランティアは回転も早い。竹内さんは「毎回、1から教えることを思うと、自分たちでやったほうが早い」と話す。
逆に、歓迎されるのは、お茶の準備や喫茶室の運営など、職員の手が薄くなりがちなレクリエーション部門。傾聴ボランティアも、特に人数が少ない男性は喜ばれるという。東京都豊島区の特養ホーム「養浩荘」の松室登志子施設長は「ボランティアがいると、施設運営は風通しが良くなるし、地域との情報共有にも役立つ」と歓迎する。
しかし、関係者の中では「介護技術がない人に来てもらうなら、1人か2人で十分。ボランティアの数が多いと、職員は行動を見守らねばならず、かえって負担が増す」との声も根強い。
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施設はどこも人手不足だ。別の施設長は「景気が良くなっているせいか、ここ1年ほどは応募しても、ほとんど反応がない」と頭を抱える。しかし、「資格を持つパートでさえ、1〜2年継続して、やっと仕事を任せられる」(竹内さん)。人手不足をボランティアで補えないのが現状だ。
これから定年を迎える団塊の世代にも、ボランティアを志願する声は強い。本間理事長は「ボランティアを使わないのではなく、施設はボランティアを教育し、継続するように、かかわり方を考えていくのが重要」と指摘する。
施設関係者は、ボランティア希望者にはヘルパー資格を取って、パートとしてきてほしいとラブコールを送る。
養浩荘の松室施設長は「介護能力のある人を雇用していかないと、どうしようもない。チームワークが必要なので、他の職員が大丈夫だと認めれば、年齢は関係ない。週に3回でいい。ボランティアではなく、ぜひ資格を取って有償パートで来てほしい」と話している。(永栄朋子)
(2007/03/15)