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介護ひとやすみ(上)住所地外の保険サービス利用

撮影・大井田裕


 ■親族同士で負担シェア

 介護保険のショートステイやデイサービスは、住所地でない自治体でも利用できることがあります。市区町村の境目などではもちろんですが、なかには住まいから離れた自治体でサービスを利用できるケースも。親族で介護の負担を分け合ったり、介護者がリフレッシュする効果もあるようです。(永栄朋子)

 東京都の主婦、橋詰祐子さん(63)=仮名=は、脳梗塞(こうそく)で倒れた実母を、介護のため埼玉県の妹宅から引き取って8年目になる。

 「そろそろおけいこ事でもしようと思って、長年勤めた職場を早期退職した翌月に、母が倒れちゃったんです」と話す。現在、母は要介護5、身体障害者1級だ。生活のすべてに介助が必要で、認知症も進んでいる。

 橋詰さんは介護が始まった当初を「介護で親を殺す人の気持ちがわかる」と振り返る。したいことを我慢して一生懸命介護しても、母親は騒いだり、暴れたり…。「思わず首に手をかけたこともあります。憎いんじゃありません。耐えきれないんです」

 当時は、身なりを構う余裕もなかった。変わり果てた姿に、かつての同僚は「どうしちゃったの?」と、驚いたという。

 現在の橋詰さんは化粧も欠かさない。友人とランチも楽しむ。「始めようとすると母が熱を出す」ため、念願のおけいこ事はお預けだが、生活全般にゆとりが出てきた。

 「介護の歯車がうまく回るようになった」(橋詰さん)秘訣(ひけつ)は、デイサービスをフル活用し、3人の姉弟で介護の分担をしたことだ。

                  ◆◇◆

 母親は月のほとんどを橋詰さん宅で過ごし、毎日午前9時〜午後4時までデイサービスに通う。

 そして、月に3〜4日、埼玉県の妹宅に戻る。会社員の妹(60)は母親が来ると、朝食の用意をして、午前7時に出勤。その後、近くに住む弟(55)がやってきて、食事の世話や身支度を整え、母をデイサービスに連れていく。夕方再び妹宅に連れ帰り、妹が帰るとバトンタッチする。

 妹宅はもともと、両親が住んでいた家。母と妹はここで父親を介護して看取った。それだけに、橋詰さんも「今度は私が介護を担う番」と、母親を引き取ったが、現実は厳しかった。

 しかし、橋詰さん宅と妹宅の双方でデイサービスを使えると分かり、妹が定期的に母親を預かってくれるようになると、すべてがうまく回り始めた。妹や弟も毎月、母の様子を確認できて安心するし、何より母がうれしそうだ。年に1度は長めに預けて、橋詰さんは海外旅行にも出られるようになった。

                  ◆◇◆

 厚生労働省によると、介護保険の在宅サービスは、「居宅」で受けるのが決まりだ。訪問介護、訪問看護、訪問入浴などは居宅で受け、デイサービスやショートステイには居宅から通う。

 ただ、どこが居宅かの判断は自治体に任されている。このため、比較的柔軟に判断するところがある一方で、隣接する自治体などでの利用は認めても、住民票のない短期間の滞在には原則、サービス利用を認めないところもあるようだ。

 橋詰さんの場合、母親の住民票は住まいのある東京都ではなく、埼玉県の妹宅にある。しかし、双方の自治体とも、住民票にはこだわらず、姉宅、妹宅のどちらも「居宅」とみなしたようだ。

 埼玉県介護保険課は「家庭の事情はさまざま。妹さんは1人暮らしで仕事を持っているし、母親は姉宅でも実際に一定期間を過ごしている。ケアマネジャーさんも、保険者である自治体も、デイサービスの利用は不可欠と判断したのでしょう」と解説する。

 厚生労働省も「介護者が出張などで兄弟や姉妹宅に預けるケースは十分考えられる。『住民票を移さないと利用できないのか』と聞かれることはあるが、省としては、そうは考えていない」と、双方の自治体の見方を支持する。

 「居宅」を厳格に住所地とすると、サービスが使えなくなり、在宅の介護を支えきれなくなる。自治体の柔軟な判断が継続的な介護につながるという声もある。

 橋詰さんは「自治体が違うと、デイサービスが使えないと思っていたけれど、必ずしもそうではない。みなさんに教えてあげて、喜ばれてます。私も1人では、とても母を見きれませんでしたが、今はデイサービスや妹と弟のおかげでリフレッシュできます。何より3人のきずなも深まりました」とする。

 そのうえで、介護を乗り切る工夫として、「こんなサービスがあったらいいなと思ったら、ケアマネさんに可能かどうか聞いたり、新聞を読んだりして、とにかく情報をたくさん仕入れることが大切です」と話している。

(2007/04/24)

 

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