■リフレッシュの妙案
介護が始まると、自宅に縛られがちなのは介護する側もされる側も同じです。遠出の際に要介護者から「一緒に行きたい」と言われて困った経験のある介護者も多いのでは? 今回はそうした悩みを、遠隔地でのデイサービスやショートステイの利用で解決した夫婦を紹介します。介護する妻だけでなく、介護される夫にもリフレッシュになるといいます。(永栄朋子)
関西地方に住む田辺道子さん(75)=仮名=の夫は10年前に心筋梗塞(こうそく)で倒れた。要介護は3。手すりにつかまって数歩、歩くのがやっとだ。
道子さんの介護保険の使い方は合理的。ケアプランは自己作成で、ヘルパーも頼まない。移動式の手すりも、借りれば月に500円で済むが、約3万円で購入した。
「自己負担は500円でも、保険から毎月4500円も業者に支払われる。もったいない」という。
そんな道子さんだが、珍しいサービスの使い方も。遠出の際には夫も一緒に出かけ、訪問先に近いデイサービスやショートステイに預けるのだ。
実は、実家で法事があるたびに夫との間で「一緒に行く」「連れて行けない」と、もめた揚げ句に発見した解決方法だ。
道子さんの実家は、在来線を乗り継いで住まいから2時間弱。家は門から玄関まで飛び石が並ぶような古い日本家屋で、介護にはおよそ向かない造り。夫と一緒だと、自分がばててしまうから、できれば自宅近くのショートステイで待っていてほしいが、夫は嫌がる。
困り果てた道子さんに実家に近い事業所で働くめいが「デイサービスに余裕があるから、法事の間、叔父さんを預かるわ」と申し出てくれた。自宅近くの施設を嫌がる夫も、旅先のデイサービス利用は喜んだ。
「たとえ行き先が施設でも、夫は実家までの道中の車窓の風景や、駅員さんたちとの触れ合いに癒やされるようです」
今年のゴールデンウイーク前には、初めてショートステイを利用し、4日間帰省する。目的は、道子さんの同窓会参加。夫が倒れて初めてだ。
「この年になると、同窓会は何よりの楽しみ。帰省先でも施設が利用できると知って、夫も私も生活に目標ができました。私も介護を楽しんでいるわけではないけれど、めげていても仕方ない。夫も今ならまだ車いすで外出できるから、次は温泉地に連れて行ってあげたい」
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こうしたサービス利用は一般的でないが、住まいのある自治体が認めるなら、介護生活にメリハリが出そうだ。特に、ショートステイの込み具合は自治体によって差があるため、自宅近くで利用できなかった人も選択肢が広がる。
具体的には、担当のケアマネジャーに相談して、ケアプランに盛り込んでもらえばいい。
道子さんはケアプランを自己作成しているので、利用したい地域の施設に直接電話をして交渉する。「デイもショートも直前になると、急なキャンセルで空いていることが多い。利用後は、普段どおり地元市役所に、書類を提出するだけ」と説明する。
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ただ、注意しなければならないこともある。遠隔地のサービス利用に柔軟な自治体でも、こうしたケースでは「旅行のホテル代わりに施設を利用するのでは?」と懸念する場合がある。
有名温泉地を抱えるある県の担当者は、ショートステイやデイサービスは本来、地域住民のために整備されたものとして、「県外の方のリフレッシュのために、地域の方が利用できなくなっては困る」と懸念を示す。
しかし、県民が遠隔地のサービスを利用した場合は「県外サービスだからと、すぐに給付をやめることはない」としながらも、「今月は野沢温泉、来月は草津温泉など、観光地の施設ばかりから請求が来たら、それはどうかと…。適切な介護保険の使い方なのか、聞くだろう」と話す。
同様の懸念はケアマネジャーの間でもある。
「独立・中立型介護支援専門員全国協議会」の高橋勉副代表は実際に、遠隔地のサービスを利用したケアプランを立てている。しかし、あくまでも正当な理由があると判断したとき。
「中には『なんちゃって要介護』というか、要介護認定があっても、比較的元気で、ショートの利用が趣味のような人もいる。そんな方が観光地の施設をはしごしたいと言ったら『それはできない』と説明する」と、県外サービスはあくまでも、適正利用が大前提と説明する。
とはいえ、介護者のリフレッシュはショートステイの目的の一つ。とかく自宅に縛られがちな介護生活で、こうした利用ができれば、介護者に楽しみも生まれる。介護される側も、旅の楽しみが味わえるなら、一石二鳥といえそうだ。
(2007/04/25)