得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

誰でも、どこへでも 福祉輸送の課題(1)

「大工になる夢は破れましたが、人の役に立てる仕事に就けて満足です。母には頭が上がりません」と話す久保田鹿斗さん=横浜市港北区の「日総ニフティ」


 ■障害超え就職かなえる

 どこへでも自由に出かけたい−。バリアフリーの駅などが増えています。それでも、車いすを使う障害者や高齢者には、家から目的地へ直行できる福祉タクシーや、NPOなどによる移動サービスが頼みの綱。しかし、車の数や行政対応はまだ不十分で、外出の苦労は絶えません。4回にわたり、福祉輸送の現状を探ります。初回はNPOの移動サービスのおかげで「新しい人生が開けた」という重い障害のある青年の話です。(中川真)

 「職場の雰囲気はいいし、仕事も自分に合っています。最高ですよ」

 横浜市都筑区で両親と暮らす久保田鹿斗(ろくと)さん(23)は、介護サービス会社「日総ニフティ」(同市港北区)の社員として、ヘルパーの勤務表入力などの事務をこなす。

 鹿斗さんは16歳のとき、バイク事故で全身を強打。生死の境をさまよった末、脳損傷で感情コントロールなどが難しくなる「高次脳機能障害」が残り、足も不自由になった。

 4度の手術、転院、リハビリ、更生ホームでの暮らし…。3年後に自宅に帰ったころは、脳障害による家庭内暴力で、部屋中の物を家族に投げつけるような状態だった。

 母親の絹子さん(52)は、トラブルも覚悟して、授産施設や作業所へ積極的に通わせ、鹿斗さんも「会社で働いてみたい」と、強く思うようになった。

 鹿斗さんが昨年11月、今の会社に就職できたのは、その前の7カ月間、「神奈川障害者職業能力開発校」(相模原市)に通うことができたからだという。自宅から20キロ近く離れた同校への通学を支えたのが、NPO法人のボランティアによる移動サービス(福祉有償運送)だった。

                   ◇

 「夢のようです。つながるはずのなかった就職という希望が、現実につながったんですから」

 母親の絹子さんが心を痛めてきたのは、鹿斗さんが「高次脳機能障害」を抱えてしまったからだった。外から異常は見えにくいが、記憶力や注意力などの働きが低下するなどのため、障害者を前向きに受け入れる企業でも、なかなか採用に踏み切れない。

 絹子さんは障害をカバーするだけの技能を身につけなければ、就職は難しいと考え、同校の受験を勧めた。「厳しいだろうと思っていましたが、合格しました。うれしかったですが、大変だったのは、そこからでした」

 同校の寮に入れるのは、身体障害の人だけ。高次脳機能障害もある鹿斗さんは「態勢が整っていないから」と断られた。

 だが、通学には自宅から車いすで最寄り駅→地下鉄→JR→私鉄→バスと乗り継ぎ、1時間半以上かかる。駅員やバス乗務員の介助も必要だ。障害で脳の疲労が激しいので、毎日の通学は容易ではない。

 そこで、絹子さんは片っ端から福祉タクシーに問いあわせた。ところが、介助料を含めて「片道1万3000円」の見積もりを出されたり、片道6000〜7000円でも、「長期の予約は受けられない」と言われたという。さらに、難しい障害のある鹿斗さんとドライバーの相性も心配だった。

 入学式まで1週間。途方に暮れた絹子さんは、かつて利用したNPOに「タクシーと同料金でもいいから、何とかなりませんか」と泣きついた。

 このNPOは2、3日で4つの団体に協力を取り付け、結局、月〜金曜の計10往復分の担当者が決まった。運賃は車の種類にもよるが、片道2700〜4500円程度。

 「運転手さんは主婦や高齢の男性。障害者に慣れていて、急にトイレに行きたくなっても、嫌な顔をせず、コンビニエンスストアに寄り、トイレを借りてくれるんです。連絡も密にしてくれて、安心でした」(絹子さん)

                   ◇

 今は電車で通う鹿斗さんも、「移動サービスがなければ、就職できなかったと思う」と振り返る。しかし、日本の福祉輸送は、まだ十分に機能していない。

 身体障害者や要介護の高齢者は、重複もあるが計700万人超。しかし、国土交通省によると、車いすごと乗れるなど、設備の整った「福祉タクシー」は、タクシー業者や介護保険のサービス事業所、福祉目的に限定した個人タクシーも含めて、全国で9699台(平成17年度末)しかない。

 このため、NPOなどの移動サービスの役割が高まっている。福祉などが目的なら、国交省の許可を受け、白ナンバーでも、お金を取って人を運べるもので、車両数は18年度末で1万3910台。国交省は昨年秋、道路運送法を改正して位置づけを明確にしたが、現場は課題が山積している。次回から福祉輸送の可能性と問題点をリポートする。

(2007/05/14)

 

論説

 

 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.