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誰でも、どこへでも 福祉輸送の課題(2)

ヘルパーが車いすの女性を自動昇降機に乗せて自宅まで運ぶ=東京都多摩市



 ■介護保険使えぬ運賃

 電車、バスならわずかな費用で行ける場所でも、福祉タクシーや移動サービス(福祉有償運送)の車を使うと、多額の費用がかかってしまいます。介護保険は移動そのものには使えず、利用者の外出はサポートされません。ヨーロッパに比べ、高齢者や障害者の福祉輸送が立ち遅れた日本。制度と現実のギャップを、東京・多摩ニュータウンで取材しました。(中川真)

 「タクシーも介護保険で乗れるのでは?」

 そう思われた読者もいるだろう。平成15年度に制度が改正される前は、ヘルパー資格のある運転手が目的地への送迎を、介護保険の「身体介護」として行っていた。

 利用者は210円(当時)を負担。業者は2100円(同)の報酬を得た。要介護度が軽く、そこそこの距離なら、2100円は実際の運賃に見合うので、ほかに費用を取らない業者もあった。

 タクシー会社は運転手にヘルパー資格の取得を勧め、平成11年に約1300人だった有資格の運転手は、15年には約6・5倍の約8500人に達した。負担額が少なく、利用者にも好評だった。

 ところが、介護をしない走行時の「運賃」に、介護保険を使うのは適正でないとして、厚生労働省は15年度からこうした利用を禁止。代わりに、通院について家と病院での乗り降りの介助を、片道1000円(自己負担100円)で介護保険の対象にした。

                  ◇

 昭和46年から入居が始まった東京都多摩市を中心とした「多摩ニュータウン」。高度成長の象徴ともてはやされたベッドタウンは、人口20万人の一大都市に成長したが、開発初期に30代で引っ越してきた人たちは、みんな高齢者になった。建物も住民と一緒に年をとり、エレベーターがない古い中層団地も多い。

 ある団地の3階に住む70代の女性は進行性のパーキンソン病。夫が在宅で「老老介護」をしている。要介護3だった2年前は、手すりを使って階段を上り下りできたが、いまは要介護5。車いすがないと外出できない。

 このため、女性がデイサービスに出かける際は、団地の階段の上り下りの介助を、「1台100万円」という自動昇降機を持つNPOが担う。

 介護保険の制度上は、図のように、デイを提供する施設側が、玄関先まで利用者を送迎し、費用もデイ利用料に含まれることになっている。しかし多摩ニュータウンでは、施設側が上り下りの介助に対応できないと、高齢者のデイ利用を断るケースも生じ、利用者から「引きこもりになってしまう」などの相談があった。このため、多摩市はニュータウンの特殊事情として、階段の上り下りの介助を「身体介護」に認めた。費用は1回、ヘルパー1人あたり約2450円(自己負担245円)だ。

 市の担当者は「ヘルパーがおんぶで上り下りすると、利用者が転倒したり、ヘルパーが腰を痛める可能性がある。ほかの利用者の送迎も遅れてしまう」と、昇降機を利用したサービスの利点を説明する。

 階段の上り下りがつらく、「使いたい」という高齢者は多いが、対象者は要介護4、5などの条件を満たしている7人だけだ。「要介護4から3に変更され、断腸の思いでお断りした方もいる」(市担当者)

 昇降機を持つ同市のNPO法人「ハンディキャブ ゆづり葉」の杉本依子理事長は「かなり前ですが、タクシー業者に『おんぶだと2万円』と言われて困っていた利用者がおり、思い切って導入を決めた」と話す。

 「おんぶでは、骨粗鬆(こつそしょう)症の高齢者の骨折も招きかねない。介護保険のルールは現場の事情とほど遠い」(杉本さん)

 この日も、「ゆづり葉」のヘルパー2人が団地前で、女性の乗った車いすを送迎のデイ職員から引き継ぎ、昇降機を装着。女性は車いすのまま、ご主人が待つ3階に送り届けられた。多摩市では、自力で階段を使えない人は、通院の際もこのサービスが介護保険で使える。

                  ◇

 厚労省は、介護保険でタクシーなどを利用できないことについて、「介護保険は日常生活に必要なことに使うもの。社会通念上、運賃などは対象と考えにくい」と説明する。

 しかし、障害者や高齢者の交通問題を研究している首都大学東京の秋山哲男教授は「日本の現状はヨーロッパの20年前のレベル。先進国では1周遅れのラストランナーだ」と指摘する。

 秋山教授によると、スウェーデンなどでは国が数値目標を作り、福祉輸送を普及させた。英国では、自力で通院できない外来患者を、国の外郭団体が車で送迎する。私用の外出に使えるボランティア車両も多いという。

 日本では、障害者や、一部では要介護の高齢者にも「福祉タクシー券」を支給する市町村はあるが、金額や利用条件はバラバラだ。次回は、福祉輸送が手薄な町では移動がいかに大変か、という体験談を紹介する。

(2007/05/15)

 

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