得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

誰でも、どこへでも 福祉輸送の課題(4)


 ■需要に反し輸送量減

 高齢者や障害者に不可欠な福祉輸送ですが、タクシー会社、個人、介護保険サービス事業所、NPOと、担い手はさまざま。運営のルールや利用者の安定確保などをめぐり、どこも苦労が絶えないようです。最終回は「運ぶ」側の事情を紹介しながら、福祉輸送の方向性を考えます。(中川真)

 「今後、運賃を値上げする移動サービスが次々に出てくると思います」

 NPO法人「全国移動ネット」の伊藤みどり事務局長が心配する。

 昨年10月、お金をとって人を運ぶ移動サービスは、福祉の「特例」扱いから、タクシーなどと同じように、「道路運送法」で正式に位置づけられた。国土交通省は同時に、運行管理の責任者を常時置くことや、点呼の徹底、運転ボランティア全員が新たに認定講習を受けることなどを義務づけた。

 これらの費用が運営を圧迫し、運賃アップにつながるのではないか−というわけだ。

 国交省の担当者は「人命を運ぶのだから、一定の体制を整えるのは、安全の信頼性を示す意味で必要」と理解を求める。しかし、特に認定講習は運転、介助の座学と実習で2日間、1人1万円弱かかり、不満が根強い。

 3年前、NPOなどのサービスを、利用者に紹介する「共同配車センター」を作った大阪府枚方市の藤沢秀治福祉部長は「ボランティアが自費で講習を受けるのは大変だ。負担を感じ、『辞める』という人が続出すれば、枚方の移動サービスは壊滅してしまう」と危機感を強める。

 こうした声を受け、国交省は先週、講習要件を緩和。過去に講習を受けた運転ボランティアの運転実技、ヘルパーの乗降介助実技などを免除した。だが、「これまで市と共同配車センターが行っていた講習会は、参加費1000円だった」(藤沢部長)と関係者の不満は消えない。

                 ◆◇◆

 一方、福祉タクシー業界は、伸び悩みの傾向にあるという。「全国福祉輸送サービス協会」の水田誠副会長は「格安なNPOが、一般のタクシー車両に近いセダン型でサービスを始めてから、特に地方で高齢客が取られている」と指摘する。都市部でも、財政難で助成を減らす自治体も多い。

 「リフト付き車両の価格は通常モデルの2倍。NPOのように、財団などの寄贈はない。運転手に約1週間、乗降介助の研修をさせる費用や、その間の人件費も大きい」(水田副会長)。

 ところが、国交省によると、福祉車両は毎年“右肩上がり”で増え、平成17年度末には、3年前の約3倍の計9699台になっている。

 同協会は「簡単に開業できる福祉限定の個人タクシーが一気に増えたものの、うまくいかずに休業中の台数も含んでいるのでは」と、“幽霊車両”の存在を指摘する。こうした個人タクシーは、福祉限定の許可だから、深夜の繁華街で一般客を乗せることもできない。

 輸送量は、NPOでも減少傾向。ただ、東京・多摩地区のNPO調査では「介護保険のサービス事業所を兼ねる団体だけは伸びている」という。関係者は「ケアマネジャーを通して依頼する利用者が増えたのでは」と分析する。

                 ◆◇◆

 タクシーもNPOも、輸送量は減り、車両は余っている様子。しかし、利用者は車の手配に苦労しており、現状にはミスマッチがありそうだ。

 「東京ハンディキャブ連絡会」の伊藤正章さんは「配車の依頼が朝の通院時などに集中している」と、個人で探す限界を指摘する。「利用者の要望を聞いて、それに合った業者・NPOを探してくれる『共同配車センター』が各地に必要だ」と強調する。

 だが、成り立ちや利害が違うタクシーとNPOが、一緒にセンターを作るのは難しい。国交省は18年度予算で、センター新設の補助金として、総額1億2400万円を計上したが、立候補する地域はなかった。

 利用者が、サービスを仲介する機関の存在を知らないことも大きい。タクシー業界でつくる全国福祉輸送サービス協会は昨年10月、「東京福祉タクシー総合配車センター」(45事業者、79台)を作った。しかし、「宣伝が足りないのか、予約数は1日に平均6、7件」(事務局)しかない。

 首都大学東京の秋山哲男教授は「需要はある。『体が悪いのだから仕方ない』と外出をあきらめている人が多いのではないか」と、指摘する。

 福祉輸送の本格的な取り組みは、始まったばかり。「バリアフリー新法」では、「22年度までに福祉タクシーを1万8000台に倍増」と数値目標を掲げている。高齢者や障害者も「行きたい所へ行けるのが当たり前」の社会を作る具体的な取り組みが求められている。

 =おわり

                  ◇

【NPOなどの移動サービス】

全国移動ネット (電)03・3706・0626(毎週月曜10:30〜12:30、第1、第3火曜14:30〜16:30に相談員が対応)

【福祉タクシー】

東京福祉タクシー総合配車センター (電)03・5287・5294(都内の相談・配車)

全国福祉輸送サービス協会 (電)03・3222・0347(全国の情報)

【輸送サービス全般】

東京ハンディキャブ連絡会 (電)03・3222・8915(全国の情報)

(2007/05/17)

 

論説

 

 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.