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在宅介護、本当に必要なもの(1)

撮影・大井田裕(写真はイメージです)


 ■重度者へのサービス 行政は情報蓄積を

 介護保険が始まって7年がたちました。当初から「走りながら考える」といわれたものの、充実は遠いようです。厚生労働省は在宅介護を進めたい意向ですが、在宅を支えるには、何が本当に必要なのでしょうか? 初回は、介護度が重くなると、事業所からサービス提供が断られてしまう現状をリポートします。(永栄朋子)

 「転んで、けがでもされて訴えられたら、困ると思ったのでしょう」

 千葉県浦安市の武本道雄さん(78)=仮名=は最近、なじみの事業所から要介護4の妻の入浴介助を断られた。

 きっかけは妻の入院。介助があれば、なんとか浴槽まで歩けた妻も、2週間の病院生活で足腰がすっかり弱ってしまったのだ。

 退院後、なじみの事業所は1度来ただけで、「危ないからやめさせてほしい」と申し出た。現在、妻の入浴介助は自費で頼んでいるヘルパーさんが1人で行う。

 介護保険の限度額は「たくさん余っている」(武本さん)から、別の事業所を探す方法もありそうだが、武本さんはそのつもりはない。担当者が変わるたびに、妻や家のことを一から説明し直すのも疲れるのだ。

 「自費でお願いしているヘルパーさんが1人でやってくれることを、事業所は2人体制でも断りました。日本も訴訟社会になったということでしょうか。これでは重度の人ほど困ってしまいます」

                   ◇

 介護保険の事業所は、症状の重さで利用者を選んではならないのが前提。厚生労働省は、要介護度が重いからと、サービスを拒否する事業所は「都道府県の指導対象になる」と警告する。

 しかし、「重度化したら、サービスを拒否された」というケースは珍しくない。事業所側は表向き、重度化とは違う理由を挙げるからやっかいだ。

 首都圏のある大手訪問介護事業所のヘルパー(39)は、特に入浴介助などで危険性を感じる利用者には「ケアマネジャーが異なる事業所のデイサービスを勧め、入浴のない在宅サービスに切り替える」と打ち明ける。

 デイサービスなら、入浴設備も整っている。家族の自由時間も増えるから、移行は比較的スムーズだが、「訪問介護先での事故を恐れる事業所の責任逃れの側面が強いと思う」と、このヘルパーは指摘する。「多くのヘルパーは重度の人こそ支えたいと思っているが、事故を恐れて敬遠するのが現実。合言葉は『何かあったら大変』ですから…」

 重度者を避ける傾向は、施設でもあるという。千葉県内の医療法人系列のデイサービスに勤めるヘルパー(40)は「手がかかるようになったら、入院をきっかけに利用を制限する」と話す。

 重度化で、介護の場が在宅→施設→病院と移っていくのは、サービス提供側にすれば、“住み分け”かもしれない。しかし、「最期まで在宅で」と願う利用者には助けがない。

 断りの常套(じょうとう)句は「定員に空きがない」や「送迎ルートから外れた」というもの。このヘルパーは「職員数が限られているので、しわ寄せは重度者や集団行動ができない人にいく。こうした人ほど、家族の介護負担も大きいので、ジレンマがある」と嘆く。

                   ◇

 もちろん、こうした事業所ばかりではない。

 神奈川県藤沢市のNPO法人「ぐるーぷ藤」は地域の開業医が「症状が重すぎて、怖い」と往診をためらうようなケースでもチームで支える。

 理事長の鷲尾公子さんは「周りは『重度の方がやりがいがある』と喜ぶ事業所ばかり。重度化を理由に断る事業所があるなんて、信じられない」と驚く。

 いまや事業所の姿勢や力量の差は歴然。在宅介護を続けられるかどうかは、いい事業所にめぐり会えるかどうかにかかっている。

 しかし、どの事業所がいいかは、利用者には分かりにくい。「サービスを比較して選べるように」と、都道府県は昨年、「介護サービス情報」の公表を開始したが、分かるのはスタッフの数や提供サービスの種類など。当の介護関係者からも「何の役にも立たない」と不評だ。

 訪問介護に限れば、中重度者を一定以上受け入れている「特定事業所」を探す手もある。しかし、評判のいい事業所でも、特定事業所を取得していないところはある。しかも、利用者には、負担が高くなる欠点も…。

 利用者が、重度者を敬遠する事業所を断れば、「市場原理」で淘汰(とうた)が促されると期待されているが、「選ぶ」ための環境整備は立ち遅れている。

 こうした状況に対し、介護保険制度に詳しい同志社大学の上野谷加代子教授は「介護する家族が『この事業所には断られたが、こちらは引き受けてくれた』という情報をきちんと自治体などに伝え、行政もそうした情報を蓄積していくことが、介護市場の成熟化を促すのではないか」と話している。

(2007/05/21)

 

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