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在宅介護、本当に必要なもの(3)

写真・大井田裕


 ■生活援助の特別枠 家族単位の支援も

 介護保険では、家事サービスを行うヘルパーは、要介護者の家族のための家事ができません。利用者がヘルパーをお手伝いさん代わりにしないようにです。しかし、ルールが厳密に適用されると、在宅で暮らし続けるのが困難になる家族も。ケアマネジャーやヘルパー事業所などが融通すべきなのか、それとも、何らかの手だてが必要なのでしょうか。(永栄朋子)

 東京都近郊に住む小林貞治さん(78)=仮名=は、重度心身障害を抱えた娘のユキさん(48)と2人暮らし。妻は娘に障害のあったことを受け入れられず、40年近く前に出ていったきりだ。

 貞治さんは以来、歩けず、意思疎通も難しいユキさんを、男手ひとつで育ててきた。定年までは、娘にオムツを当て、テレビをつけて出社した。「夜勤もあったし、ユキも随分、心細かったようです。私は親失格。この子に教育を受けさせられなかったから…」

 現在は、1日のほとんどを6畳の居間で2人で過ごす。近所づきあいはない。食事も出来合いの総菜やお弁当を買ってくる。

 貞治さん自身、重い糖尿病で、血糖値が下がると気を失う。数年前には心臓バイパス手術も受けた。

 自身が要介護1だったときは、介護保険でヘルパーを頼んだ。しかし、ほどなくしてもめた。貞治さんはヘルパーに食材や娘のオムツを買ってきてくれるよう頼んだのに、事業所は「娘のオムツを買うのは、介護保険のルール違反」と譲らなかったからだ。

 重く、かさばるオムツを買うのが、貞治さんには負担だった。「でも、事業所の人は『娘さんの介護保険じゃありません』って…」

 事業所の担当者は、レシートを見せながら貞治さんに介護保険の仕組みを説明したという。だが、貞治さんには、どうして娘のオムツを買ってきてもらえないのか、理解できない。「説明は難しくて、よう分からんから…。『だったら、何を頼んでいいか分からないから、もう来なくていいです』って言ったんです」

 結局、ヘルパー事業所はこの一件で貞治さんの支援から手を引いた。

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 冷たいようだが、ヘルパー事業所は制度の決まりを厳密に守っただけだ。介護保険のサービス対象は本人。家族の洗濯や食事作りなど、「本人の援助に直接、該当しない行為」は原則、禁止されている。

 こうした線引きは、ヘルパーが「家政婦代わり」に使われるのを防ぐため。あるヘルパー事業所の責任者は「鍋いっぱいに料理を作らせ、ヘルパーが帰った後、近くに住む娘が鍋を持って取りに来る家庭があった」と話す。似たような不正な使い方は枚挙にいとまがない。

 だが、ルールが時として裏目に出ることも。特に、老々介護では深刻だ。

 要介護4の妻を在宅介護する千葉県の男性(78)は、ヘルパーに妻の薬を取りに行ってもらった。しかし、夫婦で同じ病院にかかっているのに、「妻の薬しか取ってきてもらえなかった」という。男性は結局、自分で薬を取りに行った。介護保険の目的の1つは、介護者の負担軽減なのに、これでは負担軽減にならない。

                  ■□■

 家族への家事サービスは特に、ここ1〜2年で、制度を厳格に運用する事業所が増えてきたようだ。不正が相次ぎ、自治体の監査が厳しくなったからだ。

 ある自治体の介護担当課長は、先のような事例への家事サービスについて、「それを認めると、家族の食事作りや洗濯をしてくれという別の例との線引きが難しくなる。原則はあくまでも、『本人のためのサービス』。窓口は建前通り答えると思います」とする。しかし、一方で「本当に事情があるケースは、現場で融通を利かせてやっていただければ…」と言葉を濁す。

 現実に“柔軟”対応をする事業所やヘルパーも多いようだが、対応は分かれるところだ。東京都江東区の「あいさぽ〜と江東」の三上章代所長は、ユキさんの事例について、「障害者向けの『支援費』や通販を利用するなど、対策は講じるが、“融通”して買い物をしたりはしない」と断言する。

 本来、制度で禁じられていることを現場判断で融通すると、監査の対象になる。しかも、サービス提供者によって融通するかどうかや、度合いが違えば、不公平になるからだ。

 三上さんは「現実には老々介護世帯のように、家族単位で生活援助が必要なケースはある。こうした世帯には、生活援助の特別枠を設けるべきではないか」と話している。

(2007/05/23)

 

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