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在宅介護 本当に必要なもの(4)サービスの機動性

老々介護の妻にとっては、自分が倒れたときこそ介護保険を使いたいのに…


 ■厳しい監査に萎縮

 困ったときこそ、介護保険に頼りたいもの。しかし、「ヘルパーを急に頼んだら、自費負担を要求された」というケースが相次いでいます。背景には、自治体の監査や指導が厳しくなって、サービスを提供する側が疑心暗鬼に陥り、機動的にサービスをつけることに萎縮(いしゅく)している面がありそうです。(永栄朋子)

 東京都中野区の畑山桂子さん(74)=仮名=は、要介護5の夫(78)を自宅で介護している。

 桂子さんも体調がすぐれず、昨年は2カ月入院した。桂子さん自身、要支援1。以前は要介護2だったこともある。

 夫婦には子供がおらず介護保険が頼り。桂子さんは「ヘルパーさんには感謝している」というが、悩みも…。

 桂子さんの発熱などで急にヘルパーを頼むと、介護保険の限度枠がいくら余っていても、ヘルパー代が全額自己負担になるのだ。

 費用は時間帯によるが、1時間4000〜4700円。「今後の医療費も心配だし、私も年だから、いつも実費なのは大変」という。

 緊急時に頼むのは夫の食事介助。桂子さんに「そんなにいうなら、うな重を取って、私が食べさせればいい」と思う気力と体力があればいいが、そうでなければ、1時間4000円超で来てもらう。

 腑に落ちないのは、急な依頼に対し、事業所は必ず人手不足を理由に断るのに、「実費でいい」と言うと、別の営業所から人を借りてでもヘルパーを派遣してくること。

 「急にヘルパーさんを頼んで、介護保険が使えたことは1度もない。でも、『実費を払う』と言えば、必ずヘルパーさんは見つかるんです」と、桂子さんは首をかしげる。

 先日は、介護保険で昼間、定期的に来ているヘルパーに、「具合が悪いから、夕方も来てくれない?」と頼むと、ヘルパーは「いいですよ。上司に報告します」と快諾。

 だが、事業所の回答はやはり「実費ならいい」だった。理由を問うと「ケアマネと連絡がつかない。事業所と利用者の間で、利用がなあなあになっても困る」という。

 「うちのケアマネさんは5時を過ぎると、対応は留守電で、連絡を取るのが難しい。ケアマネは『緊急時の対応はヘルパー事業所に頼んである』と言うけれど、事業所は『聞いてない』って。結局、いつも実費です」(桂子さん)

                  ◆◇◆

 介護保険制度では、もちろん、緊急時にヘルパーを頼むことができる。

 だが、ケアプランに組み込まれた予定以外は、介護保険でヘルパーを派遣するのを「できれば避けたい」とする介護関係者も多い。

 共通して挙がる理由が、近年の自治体の厳しい指導態勢。通常と異なるサービス提供は、指導で理由を問われることが多い。万が一にも、不適切なサービスと指摘され、介護保険の対象外とされたら、ヘルパー派遣を要請したケアマネではなく、事業所が費用の返還を求められる。だから、事業所は指導で詳細を問われそうなサービスに実費負担を望み、ケアマネらもその意をくむというわけだ。

 日本ホームヘルパー協会の因利恵会長は「事業所の多くは赤字経営。最近は特に、監査が厳しいので、万が一、後で返還請求が来た場合に備えて、『これ以上の事業所負担は嫌』と、実費を請求するのでしょう」と、事業所の防衛本能が働いていることを認める。

 これに対して、東京都の角田康一介護保険課長は「監査や指導が厳しいというが、都が指導するのは、変更事由がケアプランに盛り込まれていないもの。『介護している娘が病気のため』などと、きちんと説明されている利用が介護保険に抵触することはない」と反論する。

                  ◆◇◆

 角田課長は「たとえば、同居の家族がいる場合の生活援助は原則できないが、家族が病気の場合は例外」とする。そのうえで、冒頭の事例についても、「ケアマネが必要性を認めて、ケアプランなどの書類が整っていれば、急にヘルパーさんを介護保険で頼んでも大丈夫です」とする。

 しかし、こうした判断はしばしば、自治体間で温度差がある。このため、例外がどこまで認められるのか、ということに、介護現場は過敏になるのだろう。

 ケアマネ側は後で違反にならないよう、何が指導対象になるか、事前に自治体に確認して、根拠を取ろうとする。

 ある自治体のケアマネ協議会の会長は「事例はさまざまで、本来、ケアマネが裁量で判断するようなものも多い。それなのに、ケアマネや事業所は根拠が示されないと、緊急のサービスを極力、避けようとするから、急な対応がしづらくなっている」と指摘する。

 サービス提供側が最近の厳しい指導で疑心暗鬼になっているのが現状のようだ。

 しかし、実際にサービスが実費でしか提供されなければ、困るのは利用者。桂子さんは「最近は、近所の友達に3000円払ってきてもらっているの。でも、熱ならいいけれど、急に私が入院するようなことがあったら、どうなるのか心配です」と話している。

(2007/05/24)

 

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