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【ゆうゆうLife】男の介護 事業編(上)銭湯がデイサービス

入浴介助をする新井重雄さん。銭湯を拠点にケアプラン作成、通所介護、訪問介護、訪問看護の在宅サービスを行い、終末期の在宅ケアを目指す


 ■運動指導の経験生かす

 女性の活躍が目立つ介護職場でも、男性が珍しくなくなりました。異分野での経験を生かし、ひと味違う介護事業を立ち上げた3人の男性を紹介します。初回は運動機器メーカーを退職し、実家の銭湯で「デイ・サービスセンター湯(ゆ)〜亀(き)」(東京都品川区)を始めた新井重雄さん(45)。銭湯を拠点に、終末期の在宅ケアを目指しています。(寺田理恵)

                   ◇

 駅前商店街を少しはずれた住宅街の銭湯「新生湯」。朝から午後3時までは「デイ・サービスセンター湯〜亀」になる。

 ここに通うお年寄りの目当ては、入浴タイム。「お風呂に入るのを楽しみに来ているのよ。他のデイへも行ったけど順番待ちで、ゆっくり入れなくてねえ」と利用者の女性(88)。

 介助を受け、手足を伸ばして広い浴槽につかる快感は、こたえられない。しかし、「湯〜亀」の特徴は、入浴前の機能訓練にもありそうだ。

 新井さんは介護事業部門の統括責任者として、「ぼーっとしている人を出さない。体を動かし、お風呂に入り、心地よい疲労を感じて帰ってもらいます」と話す。

 介護度の軽い人を対象にした介護予防デイサービスの日は、100歳近いお年寄りもラジオ体操やスクワットにチャレンジ。足踏みリレー、綱引き、玉入れでは紅白に分かれて勝敗を争った。「家の外を歩くのは不安だけど、ここなら運動しても平気」「ふだん、こんなに動くことはない」と、好評だ。

 新井さんは体育学部出身。運動機器メーカーで機器の開発・販売を行う運動指導員として勤務していた。職場結婚の妻も運動指導員。「お年寄りの筋力や歩き方を見る目はある」と自負する。

 新井さんが家業の銭湯に入ったのは平成11年、母親の病気がきっかけ。銭湯離れが進む中、昭和27年創業の新生湯も、客足は右肩下がり。空き時間を利用して福祉関係の事業ができないかと考えていた。介護保険導入の直前で介護への関心が高まった時期でもあり、妻と一緒にヘルパー資格を取得した。

 近くの在宅介護支援センターから「介助の必要なお年寄りを入浴させてもらえないか」と打診があったときは、営業時間に入浴を介助。男性4人、女性4人を週1回ずつ夫婦で介助するうち、「デイサービスができるんじゃないか」と思った。

 前例のない銭湯併設のデイサービスに難色を示した東京都にもなんとか申請を認めてもらい、平成15年7月、「湯〜亀」はオープンした。「ここのおじいちゃん、おばあちゃんの代から知っている」という97歳の常連客が、いまはデイの利用者。通い慣れた銭湯だけに、抵抗感がないようだ。

 デイを開始後、やる気のあるヘルパーやケアマネジャー、看護師らと出会い、訪問介護、居宅介護支援(ケアプラン作成)、訪問看護の事業所も次々に立ち上げた。

 今では、新生湯を拠点に働く介護事業部門のスタッフは計約50人。在宅医療に取り組む医師らと連携も進めている。

 医療の必要度が高い利用者を引き受けるため、「湯〜亀」では訪問ヘルパーが自宅から利用者宅に直接出向く「直行直帰」を認めていない。連携不足で質が低下しないように、との配慮だ。

 ヘルパーには負担だが、事業所での申し送りを義務付ける代わりに、行き帰りに立ち寄る手当として、時給のほかに200円を上乗せした。金額以上のやりがいを感じるのか、登録ヘルパーから社員になる事例が多い。

 新井さんは「55年前から新生湯を育ててくれたのは、地元のお年寄り。在宅サービスのメニューをそろえて、この人たちが1人でも多く、ふとんの上で死ねるようにしたい。そのために、医療系の知識をもつヘルパーを育てたい」と話す。

 厚生労働省が平成15年に行った意識調査では、最後まで自宅で過ごしたい人は、ホスピスや医療機関を希望する人に比べて少ない。理由は「家族の介護などの負担が大きい」「緊急時に家族へ迷惑をかけるかもしれない」などで、在宅療養の環境が整えば、自宅での最期を希望する人は増えそうだ。

 同省は昨年4月、在宅での看取(みと)りに、高い診療報酬を設定するなど、在宅療養を推進する方針を打ち出している。在宅療養が一般的になれば、質の高い在宅介護、在宅看護は不可欠だ。「終末期はいずれ在宅になる。今は、そのために勉強するとき」と新井さん。地元に根ざしたお風呂屋さんの挑戦は続く。

(2007/06/25)

 

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