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在宅サービス 見えにくい不正(上)

 ■指摘しづらいヘルパー

 「私たちは悪徳業者なのか?」。訪問介護最大手「コムスン」で働くヘルパーはそう自問します。同社の事業所が介護保険の指定を取り消される理由は、虚偽の指定申請。「高いサービスをふっかける」など、不適切なサービス提供に批判も相次ぎました。しかし、批判が寝耳に水というスタッフは多いようです。不正はなぜ、現場で見つからないのか。その原因を探ります。(寺田理恵、永栄朋子)

 「私のボーナスなんて、たったの2000円ですよ。報道で折口さんがあんなにお金持ちだと知って、本当にがっかりしました」

 6月中旬、関東地方でコムスンのスタッフを対象に、一連の騒動について、会社側の説明会が開かれた。50歳前後の女性社員が立ち上がり、本社の幹部に思いのたけをぶつける。会場を埋めた100人超のスタッフがうなずいた。立ち見も出る熱気のなか、本社幹部らは2時間にわたって、説明や質問などに応じた。

 「今回の問題は、『代わりはいくらでもいる』と、働く人を大切にしてこなかった会社側のおごりにつきるのではないか」。グループホームの施設長の発言に、会場から拍手がわき起こった。

 一連の問題で世間が同社に向けた厳しい視線とは裏腹に、介護現場の最前線に立つスタッフには、違法性の認識は驚くほどない。

 「利用者さんから『一番頼りにしている』といわれた。どこに売却してもいいが、24時間365日の介護は守ってほしい」。きぜんと発言する訪問看護師には、仕事への誇りがにじむ。

 「コムスンは世間で言われるほど悪徳なのか?」。関心はそこに集中した。登録ヘルパーが「本当に不正請求はあったのか?」と質問すると、会場の視線は一斉に本社の幹部に。幹部は「1時間分(のサービスを)、3時間分請求するような水増しはない」と否定。だが、「生活(援助)は長時間、提供できないから、その場合は身体(介護の報酬)も取る。コムスンだけでなく、業界全体がなあなあになっている。行政の言う通りにやって、本当に介護保険が成り立つのか?」と続けた。疑問を挟む者はなかった。

 家事代行型の「生活援助」を「身体介護」と組み合わせて、ヘルパーの滞在時間を確保する手法は、同社に限ったことではない。生活援助は、昨年の法改正で利用が抑制されたが、希望者が多いのが現実だ。

                  ◆◇◆

 「ヘルパーは何が不正なのか、分かっていないと思う」。同社の登録ヘルパー、田口ゆかりさん(39)=仮名=は指摘する。

 田口さんが「会社はこうやってもうけるのか」と気づいたのは、まったくの偶然。夫婦ともに要介護者の家庭で、夫のために2時間のサービスに入ると、必ず、事業所の責任者から、妻の分と1時間ずつに分けて伝票を切るように指示された。「責任者が『おじいさんの介護保険だけだと限度額を超えちゃうから、おばあさんの分も使おうね』と説明していたから、そういうものかと思っていたんです」

 だが、ある日、夫婦の伝票を見たら、限度額には余裕があった。責任者に聞くと、「分けた方が報酬が高くなるのよ」との答えだった。

 以来、田口さんは介護報酬の仕組みを勉強。すると、至るところで「ああ、こうやってもうけるんだ」という場面に出くわすようになった。「たとえば、妻を介護するおじいさんは月1回、自分の通院のためにヘルパーを頼む。本人は朝早く出て、昼前に2つの医療機関を回ろうとしますが、ケアマネは優しく、『無理しないで、一度帰っておばあさんとお昼を食べて、午後からもう1カ所に行かれたら?』と言う。ヘルパーが2回訪問すれば、事業所は長く滞在するより効率的に稼げますから。不正じゃないけれど、介護報酬の無駄遣いですよね」

 訪問サービスの介護報酬は、種類や所要時間で異なる。東京都内のある事業所は、夫が要介護5、妻が要支援2という家庭から家事代行型の「長めの生活援助」を求められ、「夫の身体介護+妻の介護予防」で計2時間、約7000円の介護報酬を請求していた。生活援助は通常、90分が上限だが、仮に2時間にするにしても、夫1人分なら、「30分の身体介護+生活援助」で約4800円で済んだはずだ。

                  ◆◇◆

 不正が指摘されにくいのは、介護報酬の仕組みが現場でよく理解されていない点もありそうだ。

 八戸大学の篠崎良勝専任講師は訪問ヘルパーに、労働環境に関する調査を実施。介護報酬に対する無関心と勉強不足に驚いた。まだ集計前だが、ほとんどのヘルパーが介護報酬の額を知らなかったのだ。ヘルパーの労働の対価として適当な額を尋ねた設問でも、「分からない」がほとんど。

 篠崎講師は「ヘルパーが制度を理解していれば、チェック機能も働き、最後の防波堤となる可能性はある。しかし、資格取得の講習でも、介護報酬までは教えない。報酬を知って『国は事業所に、こんなに払っていたの?』と驚くヘルパーは多い」と指摘する。

 また、ヘルパーの多くは非正規雇用。不正を見抜いても、「仕事を回してもらえなくなる」「報告してもどうにもならない」と目をつぶるケースもある。篠崎講師は「ヘルパーは気づいても指摘できない弱い立場にあることにも、目を向ける必要がある」とする。

 訪問サービスは利用者宅で行われるため、外部から不正を把握するのは困難だ。しかも、ヘルパーには技術や熱意ばかりが期待され、利用者は過剰なサービスを歓迎する面もある。次回は利用者側の問題を検証する。

                   ◇

 ■コムスンのスタッフに聞く

 説明会終了後、会場の外でヘルパーらに意見を聞いた。

 −−今回の問題の原因はどこにある?

 「事務処理能力の欠如につきる。コムスンは法令順守が厳しいはず。不正請求したとは思えない」(40代ヘルパー)

 −−不正はなかった? 

 「不正どころか、ボランティア部分も多い」(50代ヘルパー)

 −−介護でもうけたといわれているが?

 「コムスンは最大手だから目の敵にされた。世間は『介護でもうけるな』と言うが、介護をきれいごとですませないでほしい」(40代ヘルパー)

 「月に夜勤を12回しても月収は20万円。ボランティア精神で続けられない」(20代ヘルパー)

 「コムスンを非難する前に、厚生労働省はヘルパーに交通費も出さない介護報酬を改めるべきだ」(40代ヘルパー)

 −−交通費は制度上、介護報酬に含まれている。介護報酬がいくらか知っているか?

 「それはセンター長(事業所責任者)クラスじゃないと。身体介護で4000円? そんなに高いなんて…」(40代ヘルパー)

(2007/07/09)

 

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