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在宅サービス 見えにくい不正(下)

 ■摘発に手を焼く自治体

 「利用者も事業所も、介護保険を都合良く使っている」。手厚いケアを受ける利用者と、介護報酬を高く請求する事業所。互いの利害が一致すると、不正は起きやすくなります。しかも、利用者宅でどんなケアがされているか、書類では判別できません。コムスン処分の理由となった虚偽申請と違い、少額の水増しの積み重ねなど、金額のわりに調査に手間がかかる事例も多く、自治体も摘発に手を焼いているのが実情です。(寺田理恵、永栄朋子)

 「本当は一緒に暮らしてますよね?」

 平成15年夏、関西のある自治体。介護報酬の不正などをチェックする職員が、コムスンの訪問介護事業所の職員を問いただした。ヘルパーの一人が同居の義母を介護し、介護報酬を不正に受け取っている疑いが持たれたのだ。

 介護保険法は、ヘルパーが同居の家族に介護を行うことを禁じている。しかも、このヘルパーは一般的な掃除や洗濯も介護報酬で請求し、不正とみられる請求額は500万円に上った。

 「やっかいだったのは嫁と義母が書類上は別居だったことです」と、自治体職員は明かす。ヘルパーは事業所に登録する際、母屋と番地が1番違いの庭の古家に住民票を移していたのだ。

 別居が事実なら、介護を行い、その介護報酬を得ること自体は不正に当たらない。だが、古家は倉庫だったし、四世代同居の家族で、ヘルパーだけ古家に住民票があるのはいかにも不自然だ。

 しかも、住民票の移転は事業所の指示とみられる。「事前に事業所から県に『番地が1番違えば別居扱いか?』と問い合わせがありましたから」(同職員)

 同居を証明しようにも、利用者宅に踏み込むわけにはいかない。「当事者の自供に頼らざるを得ないのですが、これが困難なんです」と職員は言う。現場は利用者宅だから、証拠固めが難しい。しかも、家族間介護は事業所と利用者の双方に「おいしい話」。ヘルパーは本来なら、無償で行う介護や家事で給料を受け、事業所側も収入になる。介護する側とされる側は家族だから、トラブルになる心配もない。

 自治体の担当者は十数回にわたり、関係者を呼び出し、「同居ではないか?」と、問いただしたという。だが、事業所側はかたくなに「別居」と言い張った。

 最終的に認めさせたのは担当者の執念。「母屋と古家の写真を一緒に撮り、夜には古家の電気がついているかどうかも確かめに行きました。嫁がとうとう、『同居です』と認めました」

 介護保険では、別居の家族介護は禁じられていないが、やはり、不正の温床になりやすいという。

 家庭内でサービス実体がなくても、ヘルパーと利用者が合意の上で口をつぐめば、不正を証明するのは困難だ。なかには、嫁いだ娘が実母の担当ヘルパーになり、介護報酬を不正請求した例も。家で介護しているはずが、親子でスーパー銭湯に通っていたのだ。

 「介護報酬を請求しながら、親子で午後いっぱいスーパー銭湯で楽しんでいたんです。ずうずうしいにも、ほどがあります」と担当者。

 このケースでは、担当者が自宅や銭湯を張り込むなどして、300万円を超す介護報酬の返還を求めた。

                  ■□■

 厚生労働省によると、介護保険導入の平成12年4月から昨年12月までに指定取り消しなどの処分を受けた訪問介護事業所は全国で161カ所。

 理由は「架空、時間や回数の水増しによるサービス提供」89件▽「虚偽の指定申請」47件▽「人員基準違反」44件▽「無資格者によるサービス提供」43件▽「同居家族に対するサービス提供」24件▽「対象外サービスの提供」22件−など。

 「同居家族」を理由に処分を受けた事例は少なくないが、最も多いのは「架空、水増し」だ。

                  ■□■

 しかし、「架空、水増し」による不正請求の額は、積み重なると大きいが、1回あたりでは少ない。例えば、1回1000円程度の水増しを1事業所あたり何千回分も積み上げて、返還金はやっと数百万円。そのためには、ヘルパーが書いた伝票と介護報酬の請求記録を1回ずつ突き合わせるなど、手間と時間のかかる作業が必要だ。

 市町村がやっと、事業所から返還金を受けても、都道府県が事業所の指定取り消し処分を見送れば、不正を繰り返す事業所でも“退場”にはならない。

 別の自治体職員は「ヘルパーに付いて歩くわけにはいかないし、利用者も都合良く使っている場合があるから、事後の記録をチェックするしかない。無資格ヘルパーのサービス提供など、不正が明確なら指定取り消しになるが、水増しや架空請求は、手間がかかる割に摘発件数に結びつかない。事後チェックには限界がある」と嘆く。

 外部からの監視の目が届きにくい在宅サービス。故意の不正利用摘発には、市町村の努力が不可欠だが、事業所が故意でも、利用者もヘルパーもよく分からないままに不適切な利用が行われているケースはもっと多い。現場のヘルパーや利用者にも、ケアの種類と介護報酬が分かるメニューを作ることが、少しでも適正な利用につながるのではないだろうか。

(2007/07/11)

 

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