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夢を見させないで−老人ホーム入居者の嘆き(1)


 ■急成長する業界の陰に 

 介護保険導入後に急増した有料老人ホームが、団塊の世代の“ついの住み家”と期待されています。入居時に夢見るのは「手厚い」「質の高い」とうたわれるケア。しかし、中には期待が裏切られるケースもあるようです。多額の老後資金をつぎ込んだ後では、出るに出られません。急成長する業界の裏で嘆く入居者たちの声なき声を拾いました。(寺田理恵、永栄朋子)

 「家が一軒建つほどの入居金を払ったのは、手厚い介護を受けられると思ったから。でも、スタッフの数はいても、肝心の介護技術がないんですから」

 関西のある有料老人ホーム。認知症の母親を預ける40歳代の男性は、やりきれない様子だ。

 母親が暮らすホームは完全個別ケアが売り。新聞や雑誌、インターネットでも、「上質で手厚い介護」をうたっている。入居に約4000万円を払った。このホームに決めたのは、介護保険の指定基準を上回る数のスタッフを配置しているから。ケアの手厚いホームなら、認知症の母も穏やかに暮らせるのではないかと期待したのだ。

 しかし、入居してみると、予想外のことばかり。自宅で朝晩欠かさず口腔(こうくう)ケアをして維持してきた母の歯は、入居半年で総入れ歯に。認知症のため部屋の備品を壊していても、スタッフは止めに入らない。「放置されているんじゃないかと思う」と男性。母が足にけがをしたときは、治るまでの間、歩かせないようにと1日1万円以上かけてヘルパーを雇った。

 ほとんどのスタッフは認知症ケアの経験も知識もない。重度の人ほど、耐えかねて私費でヘルパーを雇う入居者も珍しくなく、「ヘルパー代だけで月に40万円かかる」という人も。「なんでこんなばかげたことになるんだ」との声がもれる。

                   ◇

 神奈川県横須賀市の女性(76)は先月、6年暮らした有料老人ホームを退去したばかり。

 「有料老人ホームって、いったい何なの? 入る前は、どれだけ期待させられたことか…」と、心の内をもらす。

 退居の直接の理由は、自身の病気。がんで余命を宣告され、ホームの提携病院でなく、緩和ケアの手厚い医療機関を選んだ結果だ。ただ、ホームでの暮らしは、入居前に思い描いたイメージとずいぶん、違ったという。

 入居時に払い込んだ額は約4000万円。高級ホームだけに管理は行き届き、24時間のセキュリティー体制も申し分ない。まだ要介護ではないが、入居時にホーム独自の介護費も払うから、必要になれば介護保険サービス以上の手厚い介護が受けられるはず。職員数は基準を上回るし、「家族のいない自分に、うってつけ」と、70歳で入居を決断した。

 しかし、実態は、夫婦で入居し、老々介護に疲れ切っているケースも少なくなかった。認知症の入居者へのケアは、なおざり。提携病院に入院した入居者は、ホームに忘れてきた入れ歯を届けてもらえなかった。改善を求め続けたが、ともに行動する仲間はほとんどいない。「誰もが、ものを言わない。ここが安らぎの場所と思って入ったから、不満は漏らしても、率先して事を構えるのは嫌がるのです」と振り返る。

 退去後、女性に戻ってくるのは1000万円。幸い、自宅を残していた。「6年で3000万円を失いました。これから入居する人に『大金を払ってはいけない』『アパートくらい借りられる余力を残しておけ』と言いたい」と忠告する。

                   ◇

 要介護度の重い高齢者を優先入所させる「特別養護老人ホーム」と違って、「有料老人ホーム」は、自分の収入とライフスタイルに合わせて選ぶことができる。

 中でも介護保険の指定を受けた「介護付き有料老人ホーム」は“ついの住み家”と期待が高い。しかし、平成12年の介護保険導入後に急成長した業界だけに、料金やサービス内容がホームによってまちまち。入居金も0円から数億円まであり、使い途は不透明な部分も多い。

 パンフレットで終身介護をうたいながら、実際は重い認知症で退去せざるを得ないケースもある。医療機関との協力体制が確立されているとしながら、診療科目が具体的に書かれていないケースもあり、トラブルは絶えない。

 こうした事態に対し、公取委は平成16年10月、パンフレットの不当表示の規制を強化。厚生労働省も18年4月、サービス内容の情報開示をホームに義務付けるなど、入居者保護を図った。しかし、契約期間が長期に渡るだけに、入居者が将来の心身状況を見越して、介護の充実度を見極めるのは困難だ。

 会員制で入居相談を行う「タムラプランニング&オペレーティング」(東京都千代田区)の調査によると、「介護付き有料老人ホーム」は介護保険導入後に急増し=グラフ、今年5月に全国で1879カ所、居室数は約10万戸にのぼる。しかし、昨年から介護保険の指定が制限された影響で新規開設が鈍化。替わって外部の介護保険サービスを利用する「住宅型有料老人ホーム」の増加が顕著という。

 「介護付き」と「住宅型」では介護報酬の体系が違う。選ぶ側には、いっそう分かりづらくなりそうだ。次回は、希望するケアが受けられない入居者の事例を検証する。

(2007/07/23)

 

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