■介護報酬に見合わぬケア
“ついの住み家”を手に入れた−。多額の老後資金を投じて有料老人ホームに入居したとき、期待するのは手厚い介護。しかし、受けられるサービスは、ホームによって違いがあります。納得のいくケアプランが立てられず、不満がつのるケースもあるようです。(寺田理恵)
「要介護2の主人が自力で起きあがれなくなっても、ホームではろくに介護を受けられませんでした。それで、2年ほど前から、外部の介護サービスを利用し始めたんです。ホームよりずっと手厚い介護を受けることができ、中のサービスと外のサービスの違いに驚いています」
関東地方の介護付き有料老人ホームで暮らす赤塚章子さん(80)=仮名=は、ホーム内の介護サービスに憤懣(ふんまん)やる方ない様子だ。
緑豊かな住宅街に立つホームは、地方公社が運営する安心感と、ホテル並みの豪華な施設が呼び物。バブル期にオープンしたときは、高額の入居金にもかかわらず希望者が殺到し、話題を集めた。
赤塚さん夫婦は当時、夫婦部屋の入居金として約4000万円と、2人分の介護費700万円を払って入居した。介護保険が導入されたときには、「重複分」として、100万円が返還されただけだから、ホームにいれば、普通より手厚い介護が受けられるはず、と信じていた。
ところが、夫の文夫さん(84)=仮名=がサービスを利用したところ、「居室で介護が受けられると入居時に確かめたのに、居室での入浴は、たった5分の見守りもできないとのこと。結局、受けられたサービスは、2人がかり15分の掃除が週2回。リハビリは半年待っても、受けられませんでした」。
他の要介護2の人も、週1回の居室清掃と隔週の浴室清掃だけなど、乏しいサービス内容。「一時介護室は人手は多いけれど、ベッド数が少ない。重度の人が増えると、足りなくなるのでは」と懸念する。
お寒いサービスに困った章子さんは思い切って、ホーム外の介護保険事業所を訪ねた。在宅の人を対象とする事業所で、文夫さんはデイサービスと通所リハビリを週2回ずつ、ケアプランに組み込んでもらえた。起きあがれなかったのが、結局、つえなしで歩けるまでに回復した。
外部の事業所に切り替えた入居者はほかにもおり、ホームよりずっと手厚い介護に驚いている。
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介護付き有料老人ホームは、利用者に代わって介護保険から満額の報酬を受ける。要介護2なら、月に約19万円だ。これに対して、文夫さんが外部の事業所に変更して使った介護報酬は出来高で約14万円。自己負担は月約1万4000円だった。
「介護報酬が約19万円の要介護2でも、提供されるサービスは掃除が週2回程度。余った分は何に使うのでしょうか」と章子さん。
一方、ホームの責任者は「介護報酬と介護費はすべて、ホーム内の介護に包括的に使っています」と説明する。
介護付き有料老人ホームでは、施設職員が要介護者全員にまとめてサービスを提供する前提で介護報酬が設定されている。在宅のように、一つ一つのサービスに値段がつくわけではない。
章子さんもその点は理解しているが、「人によって、ある程度の差が出るのは仕方ありませんが、このサービスの少なさはあんまりです。介護報酬が、その人のために使われないなんて、おかしいじゃありませんか」と怒りを隠さない。
しかし、入居者の多くは章子さんほど問題視していない。介護報酬の1割は入居者負担だが、このホームでは、入居時に「介護基金」として、一括で払う。このため、介護報酬を受けている実感は持ちにくい。章子さんはこの基金の運営にも不安を抱く。基金は要介護者の増加で目減りする一方だからだ。
ホームの運営も運用利回りの悪化や、平均寿命の延びが開設時の想定を上回り、赤字続きで、公社が事業を支えているのが実情。その公社も、民営化に向けた取り組みが進んでおり、「公社を信じて入居したのに」と不安を感じる人もいる。
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公社によると、ホームでは、要介護者を独自基準で3段階に区分してサービス提供している。介護基準やサービス一覧表は、重要事項説明書に添付しており、「契約時に納得していただいている。ケアプランも、話し合いでご了解の上、決定している」とする。
しかし、一覧表では、サービスはほとんど「必要時」の提供とされる。「何ができて何ができないのか、よく分からない」と章子さんはこぼす。
厚生労働省は「介護報酬は、要介護度に応じて、おおむねこの程度は必要という額。だが、ホーム独自の介護基準を設けることが問題とはいえない。あくまで利用者に適切なケアプランが立てられているかどうかだ」(老健局振興課)とする。
施設内でサービスを提供する介護付き有料老人ホームでは、一定レベルのメニューが、すべてそろうとはかぎらない。こうした事情も踏まえ、改正介護保険法では「外部サービス利用型」が創設された。
急増する有料老人ホーム。サービスや料金体系がまちまちで未整備な部分が多いのが現状だ。次回は、入居金をめぐる問題を考える。
(2007/07/24)