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夢を見させないで−老人ホーム入居者の嘆き(3) 

高額な入居金が、お年寄りの『足かせ』になるケースも(写真はイメージです)


 ■利用者縛る高額入居金

 最近でこそ手頃(てごろ)なところも増えてきましたが、有料老人ホームの入居金は一般に高額です。途中で退去しても、入居金の返還額はわずかで、利用者から退去の自由を奪う“足かせ”になっている面が否定できません。早急な法的整備が必要とされています。(永栄朋子)

 神奈川県の内田美恵子さん(83)は5月、2年10カ月間暮らした有料老人ホームを退去し、アパート暮らしを始めた。有料ホームは「介護」と「食事」を売りに積極的な拡大路線で知られる。しかし、実情はお粗末だったという。

 例えば、介護施設なのに、清拭(せいしき)用のタオルがなかった。中には、けがで2カ月間も入浴できないのに、頼まないと、体をふいてもらえないという人も。

 ノロウイルスらしき症状が集団発生しても、施設は詳細を隠したままだったこともあった。

 「職員がマスクに雨がっぱ姿でバタバタし始めたので、『何事?』と聞いたら『鬼退治』と。入居者の半数が寝込んでも、マスク一枚配られませんでした」

 入居者仲間と2人で、何度も本社に改善を申し入れた。「どんなささいなご希望でも、お知らせください」とあったからだ。しかし、状況は変わるどころか、入居先から「(苦情があると会社の査定で)職員の給料が下がるからやめてほしい」と言われる始末。耐えきれなくなり、退去した。

 自宅マンションを売って用意した入居金は950万円だった。しかし、戻ってきたのは200万円。入居金の返還は3年未満で200万円、4年以上はゼロという契約を交わしていたためだ。

 「ついの住み家のつもりだったから、返還金のことなんて、気にしていなかったんです」と内田さん。しかも「好きで出たわけじゃないのに、自己都合と言われて…」と嘆く。

 「それでも退去してよかった。あのまま暮らし続けるより、孤独死した方がましです。退去は私の精いっぱいの抵抗でした」と心情を吐露する。

                 ■□■ 

 「内田さんもここに入居さえしなければ、この年で賃貸アパートを探す苦労もせずに済んだでしょうに。でもここを出られるだけうらやましい」

 内田さんが退去したホームで、今も暮らす女性(82)はそうつぶやく。

 「ここには介護はありません」。女性は寝たきりになった後の介護を心配するが、ホームを出ることもできない。体力もないし、長年コツコツためた貯金を入居金に充てたため、もはや別のホームに移る経済的な余裕もないからだ。

 介護保険法の導入で有料老人ホームは激増した。だが、入居者保護の態勢は追いついていない。特に、退去時のトラブルは、多額の一時金を支払っているだけに、深刻。サービスの質が担保されず、それに耐えかねて退去すれば、「自己都合」と見なされ、返還金がわずかというホームは珍しくない。全国の消費生活センターに寄せられる有料老人ホーム関係の相談でも、一番多いという。

 入居者に経済力がなければ出るに出られず、改善を要求しようにも施設側に世話になっているだけに、立場は弱い。

 しかも、入居一時金の償却年数はホームによって異なる。中には、入居前に亡くなっても、払い込みと同時に一定額を償却してしまうところさえある。

 内田さんは「ホーム側は、私みたいな口うるさい年寄りを置いておくより、退去させて、新たな入居者を入れた方が、もう一度、入居金も取れるし、“一石二鳥”なんじゃないでしょうか」と指摘する。

 有料老人ホームの実情に詳しい評論家の俵萌子さんは「多額の入居一時金を取る仕組みは、利用者の退去の自由を奪っている。なぜ月割りの賃貸方式が広まらないのか?」と疑問を呈する。

                 ■□■

 有料老人ホームの一時金について、厚生労働省は昨年4月、各都道府県に「90日以内に契約を解除した場合は、一時金の全額を返還すること」との指針を示した。いわば、有料老人ホーム版“クーリングオフ”を求めたものだが、都道府県によって対応は異なる。

 消費者契約法の不当条項で返還を要求することもできるが、介護を必要とするような高齢者で訴える人は少ない。また、多くのホームは自社サービスを「温かなサービス」「上質の介護」など、抽象的に表現しているので、裁判で「契約違反だ」と訴えても、証明が難しいのが実情だ。

 消費者問題に詳しい東京経済大学教授の村千鶴子弁護士は、ホーム側に入居前の契約書開示を求める。そうすれば、入居者は複数のホームの契約書を比較検討できるからだ。また、サービス内容は具体的に文書にすることが必要とする。「有料老人ホームは、語学学校やエステサロンよりも、被害額は大きく、生活そのものにかかわるのに、クーリングオフや中途解約の整備は遅れている。法的整備を急ぐべきです」と指摘している。

(2007/07/25)

 

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