得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

夢を見させないで−老人ホーム入居者の嘆き(4)

退去時の「原状回復」にかかった費用の請求書(手前)と返還金の振込通知などのコピー


 ■「原状回復」思わぬ負担 

 老人ホームで発生するトラブルの多くが、退去時のお金の問題です。前回は高額の入居金の返還額にルールがない点を取り上げました。一般の賃貸住宅にありがちな「原状回復」の費用負担をめぐっても、問題が起きています。(寺田理恵)

 中国地方の「ケアハウス」を昨年9月に退去した90歳代の男性は、居室の改装費用50万円余りや電球代などを請求された。

 男性の娘は「請求書を見ると、壁や床の張り替えばかりか、次の入居者のために電球やカーテンまで取り換えてありました。カーテンは年2回、クリーニング代を払っていましたのに。契約書には『原状に回復し』とあるのみで、新しくするとの説明は受けていません。多額の費用を返還金から差し引かれ、声も出ません。新しく入居する人のために、退去者がすべて負担しなければいけないのでしょうか」と話す。

 男性は平成9年、ケアハウスに入居一時金510万円を払い、妻と2人で入居した。9年間、暮らしたが、妻が亡くなったため退去した。退去時の返還金は276万円。居室の改装費用などは、この返還金から差し引かれたという。

 リフォーム会社が発行した「復旧工事」の請求書には壁や天井、床の張り替え、遮光カーテン、レースカーテンなどの項目がずらり。合計約78万円から約30万円が値引きされ、消費税を加えた約50万円が請求額だ。さらに、蛍光灯9本と電球10個の購入代金、ハウスクリーニング代や、施設に依頼した家具類の処分費用なども加え、徴収額は約75万円にのぼった。

 退去時の「原状回復」費用を借り手と貸し手のどちらが負担するかについては、一般の賃貸住宅でもトラブルがおきがちだ。そのため、賃貸住宅の場合、国はガイドラインで、賃料には経年変化や通常使用による損耗などの修繕費用が含まれるとし、「原状回復」は、借りた当時の状態に戻すことではないと明確にした。

                   ◇

 入居当初の状態に戻すほどの請求を受けたことに納得できない男性の娘は、消費生活センターや自治体の窓口などに問い合わせた。しかし、どこに相談しても「問題がある」「ずいぶん高く取られましたね」などの意見が返ってくるばかり。結局は「改装費用を取り戻すには、少額訴訟を起こすしかない」とのことだった。

 少額訴訟とは、敷金の返還請求など60万円以下の支払いを求める民事紛争を、少ない費用と時間で解決する手続き。しかし、この手続きを取っても「大した額は返ってこない」とも助言された。「施設の職員は、父の同意を得たといいますが、父は同意していません。これ以上どこに相談したらよいのでしょうか」と困り果てている。

 一方、施設側は「同意がないまま見積もりを取るようなことはしない。退去者が負担することは、入居時にご説明した」とする。

 このケアハウスは、非営利法人である社会福祉法人の運営。営利目的の賃貸住宅とは料金設定の条件が異なるというのが、施設側の主張だ。

 施設長は「一般の賃貸住宅のように、もうけを見込んだ料金設定ではなく、入居金や管理費には修繕費用を含んでいない。退去する人か、新しく入る人のどちらかからいただくしかなく、ここでは退去者が負担する決まりになっている」と説明する。

 ただ、原状回復費には、入居者からしばしば質問が出る。そのため、ほかのケアハウスのやり方を全国的に調べたところ、施設によってルールに違いが見られた。「運営者が社会福祉法人の場合は同様の方法だが、営利法人では契約書に『入居金400万円のうち20%を補修費としてもらい受ける』といった趣旨の記載が見られた」という。

                   ◇

 ケアハウスは老人福祉施設。所得に応じて月額料金が変わるなど、賃貸住宅や有料老人ホームとは扱いが違う。しかし、福祉の世界と、一般の賃貸借契約で、慣習が異なる面があっては、利用者には分かりにくい。

 会員制で入居相談を行う「タムラプランニング&オペレーティング」の田村明孝代表は「私たちがコンサルティングを行うときは、『原状回復』の内容については、不動産の賃貸借契約に準じた扱いをするよう施設側に求めている。入居の際に心配なら、契約書に具体的な記載を求めるといい」と助言する。

 ケアハウスや有料老人ホームは、自分の収入やライフスタイルに合わせて選ぶ住まいだが、成り立ちが違うため、管理費や入居金などの料金体系やルールがまちまちで、入居後のトラブルになるケースもある。ホームの類型は違っても、利用者に分かりやすい範囲に収斂(しゅうれん)されていくことが望まれそうだ。

                   ◇

【用語解説】ケアハウス

 老人福祉法にもとづく軽費老人ホームのうち、居住性を重視した新しいタイプ。食事や入浴など、日常生活のサービスが付いたマンションのような施設で、介護が必要な場合は在宅サービスを利用する。介護付き有料老人ホーム同様、介護保険の指定を受ける施設もある。平成13年から民間企業の参入が可能になった。

(2007/07/26)

 

論説

 

 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.