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重度者の使えない介護サービス(上)受け入れない施設

 ■低リスクの軽度者優先

 介護度が重い高齢者の在宅介護では、家族の存在は欠かせません。介護の必要な高齢者が昼間、施設で過ごす「デイサービス」や、一時的に施設入所する「ショートステイ」は、家族にとってつかの間の休息。他の在宅サービスより、費用も手ごろです。しかし、重度の人ほど、こうしたサービスが使えない矛盾が生じています。(永栄朋子) 

 大阪府内の有料老人ホームで暮らす川上実さん(83)=仮名=は、パーキンソン病で要介護5。寝たきりの状態だ。

 娘の恵さん(55)=同=が2年前まで、自宅で介護していた。当時は要介護4。だが、利用できた介護サービスは、訪問ヘルパーと訪問リハビリ、訪問看護が週に1度ずつ。あとは福祉ベッドなどのレンタルだけだった。

 「事業所から『ヘルパーがいないから、サービスは週に1度』と言われて…。デイサービスはお遊戯中心だから、要介護度の重い父には無理。選択肢にも上がりませんでした。使えるサービスが少なく、在宅介護は限界でした」

 特に困ったのは、ショートステイが使えなかったこと。恵さんも持病を抱え、いつ入院するかわからない。自身の入院に備え、実さんのショートステイ先探しに奔走したが、特養には「夜間に看護師がいない」と断られ、老人保健施設には「預かってもいいが、胃ろうにして」と言われた。胃に直接、チューブで栄養補給する方法だ。

 「口から食べられるのに、胃ろうは忍びなくて…。自治体に相談したら、『重度の男性は行き場がない』といわれ、結局、有料ホームに入ったんです」

                  ◆◇◆

 デイサービス(デイ)やショートステイ(ショート)は介護する家族にとって、一時的に介護の負担から解放される貴重なサービスだ。

 重度の人ほど介護費用もかさむので、家族は限度額内でのやりくりに頭を悩ますが、費用を抑える意味でも、デイやショートは有効だ。要介護5の人でデイは夕方まで滞在しても、最大約1万5000円で、入浴や食事の世話もしてくれる。ショートは1日約1万円〜1万4000円。

 訪問入浴が1回約1万2500円。ヘルパーにオムツ交換などを頼む身体介護が1時間約4000円なのと比べると、費用対効果がいい。

 しかし、現実には、重度で医療必要度の高い人がデイやショートを利用するのは難しいようだ。

 複数のヘルパーが「施設は当たり前のように、軽い人を選ぶ」と証言する。大声を上げる、徘徊(はいかい)する、経管栄養のチューブをつけているなど、医療必要度の高い人ほど、受け入れ先が見つからないという。

 神奈川県藤沢市のケアマネジャー、丸山春美さんは「断られる人ほど、家族の負担は重い。最近も、認知症の人を預けたら、施設から『一晩中起きていて困る』と言われました。だからこそ、お願いしたいのに、2泊3日が限度。施設側の都合が優先されてしまうんです」。

 厚生労働省の最新の介護給付費実態調査月報(5月分)でも、デイサービスを利用する在宅の高齢者は、要介護1〜3ではいずれも約43%。ところが、要介護が4では38%、要介護が5では28%と、介護度が上がるに連れて、利用度が落ち込む。

 ショートステイについても、要介護1で利用する人は5・7%、要介護2で10・8%、要介護3では19・3%と介護度が上がるに連れて伸びるものの、要介護4と要介護5はともに26%で頭打ちだ。

                  ◆◇◆

 施設側は、なぜ重度の人を断るのか? 

 埼玉県内の老健の入所相談担当者は「リスク回避」と説明する。「看護師はいますが、医療体制は十分とはいえない。医療ニーズや転倒の可能性が高い人を預かって、事故があったら、責任が持てません」。

 東京都内の特養の施設長も「訴訟が怖い」とリスク回避を挙げるが、コスト面も無視できないという。

 「受け入れてあげたいが、入所者に重度者が多く、ショートでまで手のかかる人を受け入れられない。介護度が高いことで得られる報酬の差は数千円。医療必要度が高いなど、手のかかる人の報酬を上げてくれればいいが…」と打ち明ける。

 同志社大学の上野谷加代子教授は介護報酬を上げるよりも、重度者に対応できる人材を育てることが先と指摘する。対応できる人が少ないために、行き場が限られるのが現状だからだ。そのうえで、「介護保険の財源は湯水のごとくあるわけではない。いずれは、医療必要度が高いなど、介護の難しい人が優先的にサービスを使えるよう、重度と軽度のサービス配分を変えていくべきではないか」と話している。

(2007/08/20)

 

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