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重度者の使えない介護サービス(下)

自宅で暮らし続けるためには、重度の人ほど手厚い介護サービスが必要なのだが…(写真はイメージです)


 ■未熟なヘルパー

 ■研修の質、事業者間で差

 介護を受ける身となっても、自宅で暮らしたい人は多いはず。そのためには、介護度の重い人ほど手厚い介護サービスが不可欠です。しかし、実際には要介護度の重い人に対応できるヘルパーは少ないようです。スタッフに義務づけられている研修も、事業所によって質がさまざまで、熟練したヘルパーが育たないのが現状です。(永栄朋子)

 東京都中野区の山越幸さん(52)=仮名=は、ヘルパーになって約3年。「介護を極めたい」とやる気にあふれている。

 悩みは、「楽な仕事」ばかりなこと。「困っている人の助けになりたい」とヘルパーになったのに、仕事は家事援助が主。事業所が、重度で介護の手間がかかる人を、「対応できるヘルパーがいない」と断ってしまうからだ。

 重度の要介護者に対応するには、ヘルパーにも技術が必要。骨がもろい人や、体に触れるだけで痛がる人の体位を交換することもある。食事介助でも、飲み込みがスムーズでなければ、食べたものが肺に入る「誤嚥性肺炎」を引き起こす危険もともなう。

 山越さんの事業所が重度の人を敬遠するのは、以前にトラブルがあったからだ。要介護5で寝たきりの利用者の身体介護を引き受けたところ、複数のヘルパーが腰を痛め、契約を解除しようとしたところ、さらにもめた。以来、介護度が重く、手のかかる人は最初から断るようになったという。

 事業所は逆に、軽度の要介護者宅へのサービス提供を歓迎する。家事サービスなどが多いからだ。山越さんは「軽度の方の介護では、お手伝いさん代わりにされてしまうことも多い。そういう人を引き受けて、重度の人を断るなんて、何のための介護保険かと…」と釈然としない様子だ。

                 ■□■

 熟練ヘルパーの確保はどこの事業所でも深刻な問題のようだ。

 介護労働安定センター(東京都千代田区)が平成17年に、事業所に配置が義務づけられている「サービス提供責任者」797人に対して、「ヘルパー配置上の問題点」を聞いたところ、半数が「熟練ヘルパーの確保」を上げた。

 働いているヘルパー自身も、技術が不足していることについての認識はあるようだ。同センターが、ヘルパー2405人にアンケート調査を行ったところ、約4割が利用者から苦情を受けたことがあった。その原因として、「介護技術の未熟さ」を挙げたヘルパーは24・5%と4人に1人に上った。

 先の山越さん自身、エキスパートではない。技術の限界を感じるからこそ、事業所にきちんとした研修をしてほしいと思っている。ところが、研修ではプリントが配られただけ。技術が蓄積されないもどかしさを感じるという。

                 ■□■

 厚生労働省は介護保険のサービスを提供する事業所に対して、スタッフへの研修を義務づけている。研修をしない事業所は、自治体の指導対象になる。

 ところが、山越さんの受けた研修がプリント配布だけだったように、研修の質は、事業所によって違いがありそうだ。

 事業所などが行う研修で講師を務める青森中央短期大学の竹内佐智恵准教授は「事業所などで行われているのは、講義形式の研修が中心だが、テキストに書かれているような内容は現実には役立たないことが多い。技術に対する不安を持ったまま、現場に出ていったヘルパーを支える態勢が必要だ」と指摘する。

 例えば、ヘルパーに必要なのは、触ると痛がる人の体の向きはどう変えればいいのか、唾液(だえき)の出が悪い人に食事をさせるコツは? といった具体的な介護の方法というわけだ。

 「事例検討会」「身体介護技術指導」などと呼ばれる研修だが、先の調査では、こうした研修を行う事業所は約半数にとどまっている。

 講師を交えた具体的な指導が少ない背景には、教える側の人材不足もありそうだ。

 竹内准教授は「今は福祉系の大学の講師たちが、自分から事業所やヘルパー連絡会などに声をかけて事例検討会を開いているのが現状」とする。熱心な事業所や自治体が具体的な事例検討会をしたいと思っても、教えてくれる人を探さなければならない状況なのだ。

 竹内准教授は「熱心な事業所と、草の根的に活動している講師たちの接点を作ることが必要。人材バンクのようなものがあれば、一番いいだろう」と話している。

(2007/08/21)

 

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