得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

小さなまちの介護保険(1) げたばきヘルパー  

村が運営するデイサービスセンターで働く「げたばきヘルパー」の桑原さん



 ■ご近所でサービス提供

 訪問介護最大手コムスンの介護事業撤退をきっかけに、過疎地のサービスの受け皿が問題になりました。民間事業者が参入しない過疎地では、自治体が中心となってサービスを提供せざるを得ません。人口2500人の長野県栄村では、隣近所の住民が都合のつくときに出動する「げたばきヘルパー」の制度を作り、村をカバーしています。(寺田理恵)

 「雪が積もるので、冬の生活は困難です。お年寄りも春から秋にかけて畑の草取り、冬は雪かきと一年中、忙しい。元気でないと暮らせないので、デイサービスの利用を勧めても、『遊ぶひまはない』と、なかなか利用してもらえません」

 栄村社会福祉協議会の藤木寿幸さんが苦笑する。

 平年でも雪が3メートルも積もる日本有数の豪雪地帯。山間部に31の小さな集落が点在し、最奥部の秋山地区は役場から山道で30キロも離れ、雪で孤立することもある。

 平成12年に介護保険が始まるとき、村は吹雪の日や真夜中でもお年寄りの安否確認や介護に駆けつけられるよう、住民を社協の登録ヘルパーとして養成。「げたばきで行ける範囲で介護の輪を」との思いから、名称を「げたばきヘルパー」とした。

 その1人、桑原眞弓さん(48)は村直営のデイサービスセンターで週1、2回程度、働く。

 「義父母と同居していたので、いつか役に立つと思ってヘルパー資格を取りました。それに、登録しておけば、仕事があるかもしれないと思って。村ではフルタイムの仕事はなかなか見つかりませんから」

 桑原さんは15年前、東京から村の兼業農家に嫁ぎ、7年前にヘルパー資格を取った。義父母の介護では、手が回らなくなって「もう、だめ」と思うまで介護保険の認定を申請しなかったという。

 現在はデイの人手が足りないと、農業や主婦業の合間を縫って手伝いに行く。「仕事はあまり、ないですよ。今日も午前中の2時間半だけ」と話す。

                   ◇

 村の高齢化率は高く、現在、2500人の人口のうち、44%が高齢者。1人暮らしの高齢者は210人、2人暮らしも192世帯に上る。

 しかし、介護保険が始まった平成12年当時は、ヘルパーは社協が正規雇用する3人だけ。しかも、秋山地区のヘルパーは定年退職を控え、サービスの空白エリアができそうだった。

 利用者急増も予想されたことから、村は村民を対象に、講習を開いてヘルパーを養成。ヘルパーのワーキングチームを作り、村を8区分して、24時間カバーする態勢を作った。賃金は身体介護で1時間1500円に移動料750円がつく。今や1〜3級ヘルパー計113人が登録。在宅サービスの受け皿はできた。

 しかし、現実には半数が実働の機会がない。訪問介護の利用者は15世帯。介護は家族の役割との考えが根強いせいもあるが、在宅高齢者には重度のお年寄りが少ない。重度になったら、暮らせないからだ。

 住み慣れた村から離れないためには、できるだけ自立した生活を続けるほかない。

 雪深い栄村では、冬は自宅周辺の雪を踏み固める「道踏み」が欠かせない。お年寄りには困難だが、過疎化で頼める相手も減っている。村は、除雪車が入れるよう道の拡幅作業を進め、「道踏み支援員」を派遣して在宅高齢者を支えてきた。

 栄村で要介護認定を受けた高齢者は168人。今は50人が施設入所だが、「家にいれば、『腰が痛い』『脚が悪い』といいながら自分が食べる分くらいの畑仕事はして」(藤木さん)暮らす。

                   ◇

 利用者が少ないなか、社協の常勤ヘルパー2人を核に、げたばきヘルパーを必要に応じて活用することで、介護保険の効率的な運用をする。実際、栄村の65歳以上の介護保険料基準額は月2400円。全国平均4090円に比べ大幅に低い。

 しかし、村の介護保険は今年度から赤字の見通しで、3年ごとに見直す介護保険料も、21年度からは値上げせざるを得ない。給付総額は介護保険スタート当初から昨年度までに倍増したが、この間、保険料を低く抑えてきた経緯がある。

 赤字分の返済を上乗せすれば、21年度からは1000円程度も値上げになる。赤字を一般財源で埋めて月額3000円程度で済ませるか、来年度には選択しなければならない。

 村の財政は、地方交付税の削減などで今後さらに厳しくなると予測され、職員の削減や事業の見直しも改革のさなか。仕事のない村に若者は戻ってこられず、村の存続に住民の不安は募る。

 過疎の村は一般に、高齢化率が高い。しかし、民間事業者の参入は期待できず、サービス提供には知恵が求められる。住民福祉課の勝家直樹・介護支援班長は「市街地なら、利用者は複数の事業者から選択できるが、栄村では事業者を選べない。介護保険を村内のどこでも利用できるよう、村が取り組むしかない」と話している。

(2007/09/11)

 

論説

 

 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.