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小さなまちの介護保険(2)バランス感覚

特別養護老人ホーム「ユーアイホーム」。役場が老朽化し、手狭なのに比べ、広々とした環境だ(撮影・寺田理恵)



 ■納得と低保険料を両立

 町や村が中心になって介護保険のサービスを提供する過疎地。2回目は、「合併しない」宣言で知られる福島県矢祭町です。役場と住民が互いに顔が見える関係があるため、どんなサービスが必要かを、きめ細かく検討することが可能です。それだけに、住民へのサービス水準を維持しつつ、保険料の負担を抑えるバランス感覚が求められます。(寺田理恵)

 「都会に出た子供たちが帰ってこないので、高齢者の1人暮らしや2人暮らしが増えています。介護者の半数以上はお嫁さんですが、近年は山村にお嫁さんが来なくなり、独身男性が増えました。息子が働きに出ると、日中、1人になる高齢者が多く、ヘルパーさんを頼りにする家庭が少なくありません」

 矢祭町の高齢者の現状について、社会福祉士の金沢健至さん(40)はこう話す。「介護は嫁や妻が担うもの」との考え方が通じにくくなったのは、都市部だけではないようだ。

 金沢さんは先月まで、地域包括支援センター=注参照=で介護に関する相談を受けていた。町の山間部では、役場から車で往復1時間かかる地区もあり、お年寄りは車を運転できなくなれば、役場まで出てくるのも大変。そこで、センター職員が巡回することにした。介護予防の普及啓発を行う健康教室や、介護者の負担軽減や精神的なサポートも兼ねた介護教室を公民館で開き、町民の相談を受ける。いわば、“出張型”だ。

 「こちらから出向けば、参加してもらえます。気軽に役場に行けない山間部では、特に関心が高いですね。介護保険や町の高齢者在宅福祉サービスを知らない人は多い。町では紙おむつの給付券を出していますが、もらえることを知らない人もいました」と金沢さん。

 来月には、お嫁さんなど、介護をしている人を対象に、交流会を開く。日ごろ外出機会がないので、情報交換をかねた日帰り旅行を企画した。介護の必要なお年寄りがショートステイやデイサービスを利用することで、両者に介護保険の良さを実感してもらおうという試みだ。

 町の人口は7000人。「この規模だとセンターは2人で済むところを、3職種そろえてもらっています。住民のニーズを把握してやっていかないと、存在が問われてしまいます」と金沢さんは話す。

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 「小さい町ですから、だれが、どのような生活をしているか分かるんです。ほかの町と合併したら、それがなくなってしまいます」と健康福祉課で介護保険を担当する陣野勝美・主任主査。

 矢祭町は6年前に「市町村合併をしない」と宣言し、国が推進する「平成の大合併」に反旗を翻したことで知られる。

 税源と国庫補助負担金、地方交付税を対象とした三位一体改革で国や県からの支援削減が予測されるなか、特別職の報酬見直しや職員数の削減などに取り組む。老朽化した役場や、職員によるトイレ掃除は全国的な話題になった。

 しかし、町の方針は「人件費を削っても、住民サービスは残す」。要介護認定を受けていない高齢者の通所サービス「いきがいデイ」は、補助金の対象外となっても、町の一般財源で維持している。緊急通報装置の貸与や、高齢世帯の買い物や家事などをサポートする軽度生活援助などの福祉サービスも残した。

 高信栄一・健康福祉課長は「利用者が定着しており、やめると苦情が出る。軽度生活援助などを利用し、介護保険を使わない人もいるので継続する意味はある。ただし、本当に必要かどうかを検討した上で支給を決めている」とする。

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 必要かどうかをチェックするのは、介護保険サービスも同様だ。矢祭町の65歳以上の介護保険料基準額は月2480円。県内で4番目の安さは、保険料を低く算定しているせいでもある。

 介護保険料は、町が3年に1回計算し、3年間変わらない。国のマニュアル通りに計算すると、保険給付が年々伸びても、3年目に赤字にならないようになっている。しかし、高信課長は「それでは保険料が高くなるので、給付額を精査し、事業計画を厳密に立てることで、ぎりぎりの保険料に設定している」と話す。

 赤字になれば、町の一般財源で穴埋めしなければならないから必死だ。手間は増えるが、「職員は体を使え」も町の方針の1つ。

 ケアプランをチェックし、過剰なサービスがないか検討する。例えば、退院時に病院で勧められるまま、介護保険でポータブルトイレを購入しても、すぐに使わなくなってしまう例は多い。このため、事前の話し合いに力を入れるという。民間事業者が参入すると、必要でないサービスも掘り起こす傾向が指摘されているだけに、町が直接かかわる強みといえそうだ。

 ケアマネジャーは、社会福祉協議会、特別養護老人ホーム「ユーアイホーム」、地域包括支援センターに計7人。月1回の会議で家族の状況や金銭面も含めて検討し、保険外のサービスで対応することもある。

 年内には民営の特別養護老人ホームがオープンするが、介護保険の指定や指導・監督権限は町がもつタイプ。町は個室の数やトイレの配置など、無駄が出ないよう、設計段階から深くかかわった。

 介護保険サービスを無駄に使えば住民負担が増し、利用を抑制すれば不満が出る。バランスを取りながら、きめ細かな対応ができるのも、小さな町の特徴のようだ。

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【用語解説】地域包括支援センター

 介護予防や総合相談、権利擁護などが主な業務。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーの3職種が連携し、高齢者への総合的な支援を行う。平成18年の介護保険法改正で創設された。

(2007/09/12)

 

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