■地域のつながり再構築
小さな町がお年寄りの暮らしを支えるには、住民の力も重要です。北海道本別町は人口9000人。「もの忘れ散歩のできるまち」をスローガンに、認知症高齢者を地域で支える取り組みを早くから進めてきました。介護保険制度の枠外で、住民とともにサポートする態勢を整えています。(寺田理恵)
畑と牧場が延々と続く十勝平野の北東部。本別町から中心地の帯広市へは、車で約1時間かかる。町を通る鉄道が昨年4月に廃線となり、生活には車が欠かせない。
「私たちは、介護保険で対応できない長時間の見守りもします。例えば、介護をする家族が帯広の病院に行っている間の高齢者の見守り。往復のほか、病院でも時間がかかります」
グループホームを運営する木村正子さん(65)は、仕事の合間を縫って、月1〜2回程度、認知症のお年寄りを訪問する。有償のボランティア「やすらぎ支援員」として、家族の介護負担を軽くするためだ。
介護保険では、ヘルパーの利用は一般に1時間半程度。しかし、“やすらぎさん”は、お年寄りとじっくりかかわる。お弁当を持参し、服薬確認を兼ねて一緒に食事をとる。思い出話に根気よく耳を傾ける。
認知症の場合、過去の生活に着目した話し相手を務めることも、有効とされる。趣味の活動や、庭の手入れの手伝いなど、介護保険のヘルパーができない行為も、やすらぎさんには頼める。
同じ“やすらぎさん”の菅原信子さん(66)は将棋の相手もする。「3人でチームを組み、交代で、将棋が生きがいの男性を訪ねます。将棋を指すときは元気ですが、それ以外には関心を示さない。将棋ができなければ、引きこもりの状態になってしまいます」
町が実施する“やすらぎさん”の利用料は1時間100円。ヘルパーを利用するより低いのも、長時間利用がしやすい理由の1つ。訪問中、家族は一息つける。なじみの関係を築くことで、お年寄りの心身の安定にもつながる。その結果、自立生活に戻り、利用を終えた人もいる。
訪問中、トイレ介助を求めるお年寄りもいる。木村さんも菅原さんも、元は特別養護老人ホームの職員だから、技術的には可能だが、体に触れる介護はしない決まり。木村さんは「医療行為も、してあげたくてもできない」と、もどかしげ。しかし「訪問看護が必要であれば、利用につなげる役割も果たします」という。
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やすらぎ支援員の制度は、厚生労働省が平成14年から行う補助事業。認知症介護に力を入れてきた本別町は、すぐに導入した。これまでに、家族の介護経験者や元特養職員ら約30人が研修を受けて登録し、お年寄り23人が利用してきた。
本別町総合ケアセンター所長補佐で、保健師の飯山明美さんは「地域のつながりが崩壊しつつあり、介護保険だけでは全体を支えていけない。つながりを再構築する必要があると考え、保険外の支えを作ってきました」と話す。
介護保険の創設を前に、町が日常生活で援護の必要な高齢者の実態調査を実施したところ、在宅で4割、施設入所者で7割もの人が認知症か、認知症と思われる症状が見られると分かった。早期発見と治療が重要なのに、町に精神科がないため、兆候があっても診断を受けていない人が多かった。そのため、町は保健、医療、福祉関係者に、介護者や老人クラブの代表など住民も交えた「地域ケア研究会」を立ち上げ、認知症対策に本格的に乗り出した。
飯山さんは「現場は昔から困っていましたが、どうすることもできなかった。介護保険の導入に向けて忙しい時期でしたが、思い切って認知症支援に取り組みました」と振り返る。
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地域の支えを作るには、認知症に対する町民の理解が不可欠だ。介護保険発足の12年には、症状や対応方法を具体的にイメージできる介護劇の上演や、パンフレット作成を行った。翌年には医療機関と連携し、初期診断ができる態勢を整えた。その後、自治会と社会福祉協議会などの連携による支え合いの仕組みも作った。買い物時などにトラブルが起きても、地域の人に理解があれば、家に閉じこもらずに済むという発想だ。
ほかにも、建築士や理学療法士も交えたチームによる住宅リフォームの支援、ボランティアの介護相談員−と、介護保険外の支えを整えてきた。
介護保険事業では、訪問や通所など、複数のサービスで在宅を支援する小規模施設を、農村地区に2カ所つくった。広大な畑の中に農場が点在する環境だから、小規模施設が複数ある方が、利用者には使い勝手がよさそうだ。
高齢者福祉担当の木南孝幸さんは「全町単位から、エリア分けして対処する方法に転換しました。地域ごとにサービス基盤を整備していきます」と話す。
次回は「福祉でまちづくり」を掲げつつ、「ばらまきはしない」という、本別町の介護保険の運営を紹介する。
(2007/09/13)