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小さなまちの介護保険(4)脱「ご用聞き」

除雪作業のボランティアとして活躍する高校生たち(本別町提供)




 ■必要なケアを必要な人に

 認知症のお年寄りを地域で支えるため、介護保険外のボランティアなどを充実させてきた北海道本別町。介護保険では「必要なサービスを必要な人に」を徹底しているといいます。元気な高齢者も福祉の担い手として、行政と一緒に取り組む背景には、住民にも財政や介護保険の運営を考える機会が多い町の事情があるようです。(寺田理恵)

 「ボランティアや地域の会合のため、毎日、出かけています」

 認知症高齢者の介護家族を支援する有償ボランティア、やすらぎ支援員の菅原信子さん(66)。特別養護老人ホームを退職後も、忙しい日々を送っている。

 「定年後は悠々自適、お年寄りとかかわる仕事はしないつもりでした。退職後、職場の先輩に誘われて地元のボランティア団体『在宅介護者を支える会』に入ったのがきっかけで、支援員の養成講座の第1期生に。以来、自治会や生涯学習などの活動に参加するようになりました」

 本別町ではボランティア活動が盛んで、高齢者の出番も多い。年300円のボランティア保険料も自腹で払う。

 町も地域の力に期待する。本別町総合ケアセンターで高齢者福祉を担当する木南孝幸さんは「民生委員とタッグを組み、コミュニケーションを図ってきました。住民との情報交換を積極的に行っています」と話す。

 財政は厳しく、町が見直した支出も多い。例えば、自治会活動への補助はカットする一方、住民によるごみの分別を進め、リサイクル奨励金で活動資金を穴埋めしてもらう。

 苦しい台所事情を知っているせいか、住民が自分たちも福祉の担い手となって、町づくりを進めると決めた。行政の措置や給付に頼るスタイルから、住民参加型へ転換する意味を込め、平成18年に「福祉でまちづくり」を宣言した。

                  ◆◇◆

 介護保険についても、民生委員が「使えばいいというものではない」と発言するほど。行政が介護保険の要としてケアマネジメントを行い、「必要なサービスを必要な人に」を徹底する。一方で、住民ボランティアなどによる支援を充実させる。

 昨年4月施行の改正介護保険法では、軽度者への保険給付が縮小され、全国で要介護1から要支援2に認定が軽くなる人が続出。家事代行型の生活援助サービスの打ち切りに、不満の声が上がった。

 本別町でも認定が軽くなった事例は多かったが、総合ケアセンター所長補佐で保健師の飯山明美さんは「本人や家族とよく話し合い、アセスメント(課題分析)を徹底しました。家事代行型のサービスを継続したい人には、保険外のサービスを紹介するなどしています」とする。

 サービスを抑制するのではなく、重度者に重点的に使っていることは、データからも分かる。

 龍谷大学の池田省三教授は、在宅サービス利用者への給付額をグラフ化した。それによると、改正前だが、全国データでは、要介護度ごとにほとんどサービスを使わない人から目いっぱい利用する人まで満遍なく分布していた。一方、本別町では要介護3をはじめ、4、5の重度者で利用者が多い給付層があり、必要なサービスを使うよう、町が関与している様子が見て取れる。

 「全国データには給付額のまとまりがない。必要なサービスをアセスメントせず、『1万円以内で』といった、主に家族の意向を受け、ケアプランが“ご用聞き”的に作られているからだ」と手厳しい。

                  ◆◇◆

 介護保険の要介護認定は、「どれだけケアが必要か」を基に設計されている。家族や経済事情はあっても、要介護度が同じなら、利用額はある程度、まとまりを示すはずだ。例えば、池田教授が調べた岐阜県池田町のS事業所は「介護保険前から、在宅介護を24時間支えるにはどうすべきか、真剣にアセスメントしてきた実績」があり、分布に明確なまとまりがある。

 池田教授は「本来のケアマネジメントは起床、洗顔、食事、排泄(はいせつ)、服薬など、生活のリズムをつかみ、本人や家族ができることを引き算していく。ところが、白い紙に『何が必要ですか』と聞き、言われるまま足し算するから、必要なサービスがつかなかったり、必要でないサービスがついてしまう。本別町のように小さな町は、民間事業者の多い大都市圏と違い、ケアマネジメントを管理しやすい」とする。

 介護保険は、サービス量と保険料を市町村が決めるため、地方自治の試金石といわれる。事業者任せや、利用者の要望を聞くだけでは、バランスは取れない。ボランティアや自治体独自のサービスも含め、地域の実情に合った枠組みをどう作るか、自治体の手腕が問われている。=おわり

(2007/09/14)

 

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