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特養に入れない!!(上) 入所選考は公平か

「待っているのに入れない」。重い要介護者を抱える家族からはそんな悲鳴がもれる(写真はイメージです)


 自宅での介護が限界に来た人にとって、最後のとりでは特別養護老人ホームなどの介護施設。しかし、特養の待機者は全国に38万人ともいわれ、「いつまで待っても入れない」との声が聞かれます。一方で、「予想外に早く入れた」と不思議がる声も。特養ホームの入所選考は、本当に公平に行われているのでしょうか? 3回にわたってリポートします。(永栄朋子)

 「要介護5なら5点、4なら4点。介護者がいなければ5点というように、ご本人や家族の状況を、ルールに従って足し算するんです」

 東京23区内のある特養ホームで、担当者が入所者の選考方法を説明してくれた。このホームでは、区の基準に従って待機者に優先順位をつける。本人の要介護度、認知症による問題行動の有無、介護する家族の状況などを点数化する。最高点は13点だ。

 「仕事をしながら介護をする家族がいる場合は3点。独居は5点ですから、介護者がいない人の方が、入所の必要性が高いということですね」

 このホームの待機者は約600人。「入りたい」という要望を受けて、“持ち点”が高い人から順に待機者リストを作る。ホームに空きが出たら、何人かを面接し、施設内の会議で入所者が決まるという。

 リストの筆頭は要介護5で、認知症などによる問題行動があり、介護者がいないなどの条件がそろった13点の人が数人。以下、12点、11点と、同じ“持ち点”に数十人から百数十人単位の待機者が名を連ねる。13点から10点に約150人が占める。

 ホームの年間の新規入所者は10人前後だから、事実上、最高点でないと入所は難しそうだ。

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 しかし、現実には必ずしも点数の高い順に入所するわけではないという。

 実際、ホームには要介護3や要介護1という人もいる。今年も要介護3の人が、100人以上を“ごぼう抜き”にして入所した。理由は「家族による虐待」。持ち点よりも、緊急性が重視されたわけだ。虐待で緊急入所するケースは最近多く、このホームでも、区役所から年に2、3人の保護を求められるという。新規入所の数を考えると、ますます狭き門といえそうだ。

 直近で入所した2人も、要介護5とはいえ、13点ではなかった。介護者の入院で、急遽(きゅうきょ)ショートステイから入所に切り替わった。

 ホームの施設長は「ショートステイを利用して施設となじみの関係を作っておくことは、面識のない待機者より有利」と説明する。優先順位はあっても、それで入所が決まるというものでもなさそうだ。

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 厚生労働省は平成14年、特別養護老人ホームへの入所について、介護の必要度や家族の状況を考慮して、必要性の高い人から優先的に入所させるよう、各都道府県に通知した。

 しかし、通知には強制力がない。介護の必要度や優先順位の考え方も自治体によってさまざまだ。中には、「住まいに困窮している」の得点が高く、「要介護3」でも住む家のない人が、自宅のある「要介護5」の人を軽々と飛び越える自治体もある。

 東京都内に住む介護福祉士の溝上恵子さん=仮名=は「特養の入所は介護の必要な優先順で決まる」という大原則に懐疑的だ。「表向きは介護の必要な優先順だけど、特養は入所者を選んでいると思う」という。

 仕事で接した特養入所者の多くが「要介護3で家族がいた人」だったからだ。それなのに、身寄りがなく、認知症で火の不始末を何度か起こしたのに、入所先がいつまでも決まらない人もいる。

 溝上さん自身、同居の母が最近、特養に入所した。母は要介護3。まひや軽い認知症はあるが、トイレや食事の介助は必要ない。家には介護に協力的な10代の子供もいる。

 しかし、溝上さんの自治体の特養待機者は1000人以上。「区内すべての特養に申し込んでも、5年は待つ」のが通説だから、「早いうちに待機者リストに載せておくだけでも、と思って」(溝上さん)申し込みをしたのだ。

 ところが希望の1カ所に申し込んだだけなのに、2年で入所できた。溝上さんは「母が最優先されるべき人とは思えない。施設の面接では『呼び出したらすぐに来られるか』といった質問ばかり。緊急時の身元保証人の有無が入所を左右すると感じた」と話す。

 「いつになったら、特養に入れるのか」。そう思いながら、介護度の重い高齢者を日々、自宅で介護する家族は多い。介護保険がそんな高齢者や家族の助けになれないなら、何のための介護保険なのか。明日は、自治体によって入所への関与が違う実態をお伝えする。

(2007/10/01)