産経新聞社

ゆうゆうLife

特養に入れない!(中)求められる透明性

介護保険の財源は保険料と税金。施設入所には公平性と透明性が求められる(写真はイメージです)



 いったい、いつになったら特養に入れるの? 重度の介護者を抱える家族が、入所を願う気持ちは切実です。介護の必要性は高いのに、入所の順番が回ってこないのは、施設不足や、施設が医療ニーズに対応できないなど、さまざまな要因がありますが、自治体の関与の仕方にも問題がありそうです。(永栄朋子) 

 神奈川県の主婦、野原芳子さん(66)=仮名=は、介護療養型の病院に入院している。脳出血で倒れたのは7年前。双子の姉、竹内純子さん=同=は「妹は体にまひがあり、とても家には連れて帰れない。何とか特養に入れてほしいのですが…」という。

 野原さんは栄養を鼻に挿したチューブで取る。要介護度は5。介護療養型の費用は、差額ベッド代を含め、月に二十数万円。

 妹の夫(70)は、今もアルバイトで働いているが、零細企業勤めだったので余分な蓄えがあるとは思えない、と竹内さんは心配する。

 「50代で倒れたから、先が長いと思う」。妹一家には、費用の面でも、特養への入所は切実な願いだ。

 これまで複数の特養に申し込んだが、どこも鼻腔栄養を理由に門前払いされてしまった。ある特養では、胃に直接、栄養を送り込む「胃ろう」ならOKといわれた。

 「鼻からがダメで、胃からならいいなんて理不尽です。本来、介護を必要とする人が重度だからと断られるなんて、介護保険って一体、何なのかしら? 元気そうなお年寄りを乗せたデイサービスの送迎車を見るたびに、やるせない気持ちになります」

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 特養の入所について、厚生労働省は平成14年、指針を出し、介護の必要度が高い人を優先させる原則を作った。強制力はないが、都道府県はどこも指針に従って「入所選考基準」を持っているようだ。

 ただ、介護保険では、特養への入所は、施設と利用者の契約。実際に入所者を決めるのは施設で、都道府県や市町村がどう関与するかは温度差がある。

 市町村によっては、自ら窓口となって、待機者リストを管理し、特養で入所の空きが出たら、優先度の高い人を推薦する方式を取っているところも。

 一方、施設には選考基準を示すだけで、実際の選考にはノータッチという自治体もある。

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 自治体がノータッチであることは、特養の入所者に占める重度者の割合に影響しないのだろうか?

 入所者の管理を施設に任せている大阪市を例に、重度者の占める割合を比較してみた。

 全国の特養では、4と5の「重度者」が入所者に占める割合は平均65%。大阪市の特養全体に占める重度者の割合は62%で、全国値とさほど変わらない。

 ただ、施設ごとの数値では、バラツキが大きい。大阪府の「介護サービス情報公表センター」の資料(9月18日時点)から、市内の特養88カ所の要介護度を分析した。

 調査日時にややズレがあるが、要介護4と5の入居者が80%以上のホームは5カ所。一方、重度者が半分に満たないホームも10カ所に上る。最も割合が低いホームでは、重度者は34%に過ぎなかった。

 特養ホームの事情に詳しい大阪府堺市の福祉・介護オンブズマン、日下部雅喜さんは「ホーム任せの地域では、ホームが入所者を恣意(しい)的に選んでいる可能性がある。優先順とはいえ、特養の多くは、自分たちが自由に入所者を選べる『法人枠』を1割程度、持っており、入所者の選考には、裁量があるはず。入所が原則通り、介護の必要な順になっているのか、チェックが追いついていない状態だ」と指摘する。

 冒頭の野原さんの住む神奈川県の自治体も、市は入所選考に関与しない。市内の特養は2カ所だが、1カ所は「重度」の人が88%なのに、もう一方は48%。市の担当者は「施設間の差が大きいのは認識しているが、各法人の方針ですから」とする。だが、この市の待機者は4月時点で約300人。うち、要介護4と5の人は約130人だ。「法人の方針」で片付けていいのだろうか。

 上野谷加代子・同志社大学教授は「契約を前提とする介護保険になってから、本来、自治体が福祉でカバーすべきものまで介護保険任せになっている。しかし、介護保険は自治体の条例に基づいて運営され、税金も投入されている。契約とはいえ、ホームが重い人を拒んでいるような実態があるなら、行政がある程度、責任を持って入所選考することが必要だ」と話している。

(2007/10/02)