産経新聞社

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訪問ヘルパーの今 薄まる処遇への期待



 ■八戸大学専任講師 篠崎良勝さんに聞く

 コムスン問題をきっかけに、低賃金や非正規雇用など、訪問ヘルパーの厳しい労働環境がクローズアップされました。八戸大学の篠崎良勝専任講師が平成13年と19年にヘルパーの意識調査を行ったところ、希望する平均時給が大幅に下がっていることが分かりました。介護保険のスタートから7年。訪問ヘルパーの処遇への期待は薄れているのでしょうか。篠崎講師に、現状と対策を聞きました。(寺田理恵)

 −−非正社員が希望する時給は、6年間で大幅に下がっています。訪問ヘルパーは、賃金アップを望んでいないのでしょうか

 「現状に満足しているのではありません。調査結果の読み取り方によっては、誤った結論を導きかねない。介護保険が始まって間もない平成13年には、賃金がもっと上がっていくという期待感がありました。しかし、今回の結果では、そうした期待がしぼんでいます」

 −−なぜ、そう言えるのですか

 「この間、平均時給は23円のアップにとどまり、事実上の据え置き。最低時給が230円上がった一方で、最高時給は400円も下がっています。実は、同じ調査で平均就労年数は4年以上延びています。それにもかかわらず、平均時給が据え置かれており、賃金が抑制されていることが分かります」

 −−パートや登録型で働く訪問ヘルパーで、正社員を希望する人は、あまり多くないようです

 「訪問ヘルパーの平均年齢が高くなり、現在の主力は40〜60歳です。もちろん、子育て中などで登録型を希望する人もいます。しかし、正社員としての求人がほとんどないなか、現状に満足しているというより、むしろ業界を見切ってしまっているといえます」

 −−正社員としての働き方をあきらめたのでしょうか

 「正社員を希望するなら、訪問ではなく施設で働くか、ほかの業種に転出するでしょう。離職・転職を考えている人は平成13年には19・6%でしたが、19年には58・7%で過半数を占めました。正社員として働くヘルパーを増やす対策を取ることが、若年労働者の確保につながると考えられます」

 −−人材を確保するには、どうすればいいでしょう

 「1つはお金です。しかし、賃金を上げることには限界があります。自己実現や夢のサポートといった1人1人のメンタルケアが、どこまでできるかが重要です。転職・離職を考える理由で最も多いのは『希望の収入が稼げないから』の67・1%。それ以上に見逃せないのは、2番目の『社会的評価が低い』の49・4%で、介護保険創設時に調査したときより約30ポイントも上昇しています。ヘルパーの社会的地位を確立し、理解を広めることが必要です」

 −−具体的には

 「例えば、子供に将来の夢を問うと、看護師になりたいという子はいます。病院で働く看護師を見る機会はありますが、訪問ヘルパーの仕事の性質上、外との接触は少ない。訪問ヘルパーという職業を知っていても、仕事の中身については誤解が多い。家政婦との役割の違いが理解されなかったり、お年寄りのおむつを替えているといった程度の認識しかない人が少なくありません。こうした誤解を解き、正しい情報を提供していく必要があります」

 −−介護と家事の混同は根深い問題です

 「何が介護かというと、非常に幅広いのですが、そのうち、介護保険でカバーする部分は決められています。介護保険の範囲を国の議論のなかで常にチェックし、ヘルパーに対して説明すべきです」

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【用語解説】介護報酬

 介護保険給付の対象となるサービスを、事業者が利用者に提供した場合、事業者にその対価として支払われる報酬。サービスの種類や要介護度、事業所の所在地などに応じた平均的な費用を把握し、厚生労働大臣が審議会の意見を聴いて基準額を定める。利用者は通常1割を事業者に払い、残りの9割は事業者が保険者に請求する。

(2007/11/14)