産経新聞社

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介護報酬ヘルパーへの配分(2)高い離職率


 ■常勤で手取り20万円未満

 人材不足に苦しむ介護業界。求人が多ければ、待遇は良くなりそうなもの。しかし、訪問介護では、常勤ヘルパーでも手取り20万円未満は珍しくありません。介護保険サービスの値段は、介護報酬で決まる“公定価格”。そのため、報酬見直しを求める声が上がっています。報酬が上がれば、賃金は上がるのでしょうか。(寺田理恵)

 「福祉の世界は、辞めるつもり。条件がよくなれば、また戻ります。現場経験が5年あるので、介護福祉士やケアマネジャーの受験資格がある。その気になれば、いつでも戻れますから」

 神奈川県内のある訪問介護事業所で働く若手サービス提供責任者は、転職を考えている。現在は常勤だが、非正社員。

 仕事は、利用者ごとの訪問介護計画を作り、ヘルパーの調整などをする、いわば事業所の要。しかし、手取りは諸手当や交通費を含めて、何とか20万円。基本給が約7万円と少ないため、賞与は年20万円程度に過ぎない。

 「事業所では、正社員はケアマネジャー1人。非常勤ヘルパーだったときの方が月5万円は高かったですね。常勤で実務経験が長いと、サービス提供責任者に、と声がかかる。でも、責任が重いばかりで、給与は低いから、みんなやりたがらない。離職率が高い原因は、そこにもあるんじゃないでしょうか」と指摘する。

 コムスンの問題を契機に、介護報酬の見直しや、ヘルパーの処遇改善を求める声が強まっている。

 しかし、「業界で利益を出すには、利用者を増やして人件費を削るしかない。利用者は亡くなったり、施設に入ったりするので、現状を維持するのも難しい。介護報酬を上げても、ヘルパーの賃金に回るとは思えません」と、期待は薄い。

 煩雑な書類作成業務を簡略化できれば、賃金は上がると思っている。

 「自治体の指導監査で見られる書類を簡略化すれば、常勤者が書類仕事から解放され、現場に出て報酬を稼いでこられる。でも、公費を使う以上、サービスを提供した証拠を出す必要がある。やはり書類は必要なんです」と、あきらめ顔だ。

 「介護のニーズは、団塊の世代がピークだから、将来の展望が持てない。それなのに若い世代が一生の仕事として入ってきますか。今、ヘルパーの多くは子育てが一段落した40歳以上の女性。お金のためではなくて、お年寄りとのつながりに価値を感じて働いている部分もある」

 非正規雇用の職員は、特別養護老人ホームなどの施設よりも、訪問ヘルパーに多い。介護労働安定センターの調査結果によると、訪問ヘルパーでは非正社員が53・7%。さらに、その半数が短時間勤務の登録ヘルパーだ。

 非正社員の年収は「103万円未満」が42・1%で最多。扶養の範囲内での働き方を選ぶ人が多く、必ずしも生活給を求めていないとの見方もある。

 しかし、介護業界では、常勤の人でさえ、生活給が確保できないのが現実だ。

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 介護業界で働く人約6万5000人が加入する労働組合「日本介護クラフトユニオン」(NCCU)が訪問介護会社で働く人の月給を調べたところ、年齢に関係なく、ほとんどが手取り20万円未満に分布した。

 NCCUの河原四良(しろう)会長は「世間でいう格差以前の問題。常勤でも、手取り17万〜18万円で、25歳でも45歳でも違いがない。自立できない金額ではないが、家族を養うのは難しい」と指摘する。

 低い賃金水準は、離職につながる。NCCUの調査では、月給制の組合員でも、「定年まで働きたい」人は、4人に1人。

 理由で飛び抜けて多いのが「賃金が低いから」で、61・8%にも上る。

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 「コムスンの問題を契機に、訪問介護の厳しい実態が知れ渡りました。事業者の経営は成り立っているのか。働く人の賃金は現状でいいのか。こうした問題提起につながったのはよかったが、逆に若い人が介護業界に入ってこなくなり、大きな問題になっています。介護報酬を上げなければ、賃金は上がらない」

 河原会長が、こう訴えるのは、労組として賃上げ交渉を行う相手企業の業績をつぶさに見てきたからだ。

 NCCUは、介護会社ごとに組合員の分会を組織し、ボーナスや月例賃金の値上げ交渉を行ってきた。労使交渉では経営側のデータ開示を受けるが、「訪問介護事業部門はどこも赤字」。今年4月の月例賃金交渉でも、昨冬と今夏のボーナス交渉でも、上げられなかった。

 「訪問介護は大変な状況です。賃金を上げるためと明確にして、介護報酬を上げてほしい。介護報酬の額は、まず賃金から設定していただきたい」と要望する。

 介護保険の財源は、40歳以上の国民が負担する介護保険料と公費(税金)で成り立つ。介護報酬を上げれば、介護保険料にはね返る。介護報酬のうち、利用者が負担する額(1割)も上がる。報酬を上げるには、国民の理解が必要だ。次回は、訪問介護が赤字になる理由を考える。

(2007/11/20)