産経新聞社

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介護報酬ヘルパーへの配分(4)自立支援


 ■家事代行との混同も

 厳しい経営を迫られる訪問介護事業所。「サービスの質にこだわっても、利益につながりにくい」との嘆きが聞かれます。質を評価して報酬をつけようにも、介護の専門性を判断するのが難しいのが実情です。(寺田理恵)

 「経営が苦しいといっても、まだ笑っていられます。最初の3年は赤字覚悟。利益を優先するくらいなら、やらない方がいい」

 首都圏郊外にある小さな訪問介護事業所。社長は、厳しい経営状態を示す財務諸表を広げながら苦笑する。

 事業所の立ち上げは平成17年。当初の赤字を社長が埋め、社長と事務を担当する親族と2人分の役員報酬計40万円を25万円にカットした。

 3人いる正社員の手取り月収は約22万円だが、サービス提供責任者も兼ねる社長はわずか8万円。社長の取り分を減らして、月額約180万〜200万円の介護報酬に占める人件費の比率を、75%程度に抑えた。

 「ヘルパーには、安定した収入が確保できるよう、利用者のキャンセルで仕事に穴が空いた場合も、事務仕事を割り振るなどしています。だから、ヘルパーが長く働いてくれる」と話す。

 登録ヘルパーの時給は1250円と決して高くない。介護報酬の比較的高い「身体介護」でも、低い「生活援助」でも同じだ。その理由を「生活援助は利用者100人に100通りの価値観がある。塩味が好きと分かっていても、疾患があれば薄味にする。ヘルパーにとっては大変です」と説明する。

 調理などの生活援助は、18年4月施行の改正介護保険法で給付削減のターゲットとされた。軽度者への家事代行型サービスを掘り起こしたのが、給付が膨らんだ原因とみられたからだ。利用者側も調理や掃除を期待するケースが目立った。

 しかし、国の通知では、自立支援のために、ヘルパーが調理や洗濯などの家事を利用者と行う場合は身体介護の報酬がつく。

 「介護は1日のサイクルで不自由な所を補うもの。身体の介助ばかりではない。家事と大きく異なるのは、ケアプランを基に、ケアマネジャーを交えた三者で目的や目標を決める点。(調理でも、自立を促す)適正なサービスに報酬を付ければ、給付が膨らむこともないはず」と、社長のプロ意識は高い。

 ケアマネ事業所を併設すれば、利用者を獲得しやすい。しかし、「自立支援の実践がケアマネとなれ合いにならないように」と、訪問介護事業1本にしぼっている。「幸い、しっかりしたプランが組める独立ケアマネの事業所が近くにあります。利用者をあと10人増やせば、経営が軌道に乗る」と踏ん張る。

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 しかし、こうしたプロ意識が利用者に理解されるとはかぎらない。

 岡山県のある訪問介護事業所は「サービスの質で選んでもらえる事業所を目指す」との理念を掲げ、ケアマネ事業所を併設しなかったことが、経営に響いた。

 事業所数が少なかった15年ごろは問題はなかった。ところが、競争が激化し、ケアマネや病院併設の事業所が、報酬の高い身体介護の利用者を囲い込むようになったという。

 昨年度は赤字に転落。今年は何とか夏季手当を出したが、来年は難しい。結局、「いいケアマネジメント」を所内で手がけることにした。

 「ヘルパーの賃金を上げるためには、身体介護と生活援助の区別をやめてほしい」という。現状は、区別の基準があいまい。自治体の監査などで不正請求とされる可能性をおそれ、ケアマネが報酬の低い生活援助中心のプランを組みがちだからだ。

 たとえば、利用者と一緒に台所に立つ。それを自立に向けた身体介護でスタートしても、利用者がやりたがらない日が2、3回続くと、ケアマネが生活援助に切り替えてしまう。そうすると、介護報酬が1時間前後で1000円程度、下がるという。

 「介護は自立支援を目的として行うものだと、利用者にも啓発してほしい」と求める。

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 日本ホームヘルパー協会が調べたところ、都内のある事業所では報酬200万円のうち、人件費率は85%。都内の別の事業所では報酬300万円で80%と、経営は厳しい。「『ともに行う家事』も含めて、身体介護の報酬を上げてほしい」との意見も出る。

 軽度者への家事代行サービスを削減しても、身体介護の報酬を高くすれば、ヘルパー1人が稼ぐ報酬は高くなりそうだ。

 身体か生活かの区別は、国と都道府県、市町村によってもまちまち。「民間事業者の質を高める全国介護事業者協議会」(事務局・東京)は厚生労働省あての緊急要望書で「独居か同居かに関係なく、『掃除は月に2回まで、洗濯は月4回まで』など、回数や時間を制限した方が明確」とする。

 同協議会の理事長で、訪問介護会社「新生メディカル」代表の石原美智子さんは「介護とは、日常生活に障害が生じたとき、本人がどこまで動けるか、どうしたいかを観察し、残った機能を使ってもらい、足りないものを埋めていくこと。しかし、ひと口に介護といったときに、イメージするものが人によって違うのが問題。介護の専門性を、外部に示していかねばならない」と話している。

(2007/11/26)