■配置に適正な評価を
訪問介護の人件費が膨らむ要因として、ほとんどの事業者が挙げるのが、サービス提供責任者の配置。規模に応じて置くことが義務付けられ、訪問介護の中核的役割を担うにもかかわらず、その業務に介護報酬は設定されていません。（寺田理恵）
「こんなに、たくさんの書類を作るんですよ。でも、この仕事には介護報酬がつかないんです」
こう言って、書類ファイルを積み重ねたのは、東京都内の訪問介護事業所の所長。同じ利用者名が書かれたファイルが何冊もあるのは、１人の利用者のために作る書類の数が多いからだ。
訪問ヘルパーの仕事には「記録」が欠かせない。
食事に使うのは、はしかカレースプーンか。服薬のときに義歯を外すのか。利用者の心身状況によって介助の仕方が異なるので、細かな手順の把握が必要となる。
咀嚼（そしゃく）や嚥下（えんげ）の状態は、体調に応じて変化する人もいる。日々の変化を書き残す業務も重要だ。
書類作成が必要な理由は、もう１つある。
「利用者がいっしょに調理するのを嫌がっても、ヘルパーは自立に向けて根気よく『声かけ』をします。利用者の健康状態や精神状態を確認しながら、どのくらいの時間、できるかも見極めます。書類は、いわば見積もりや明細。これを見れば、サービスをきちんと提供していることが分かるでしょう」と所長。
介護報酬の支払いを受けるには、介護保険が使えるサービスを示した国の通知「老計１０」に適合しなければならない。特に、「老計１０」が高い報酬を設定する「利用者といっしょに行う家事」と、低い報酬の「代行型の家事」は、混同されがち。記録を残すことで、サービスをきちんと提供した証拠を作るのも目的だ。
ヘルパーも記録を付けるが、書類作成は、主にサービス提供責任者の仕事。訪問介護事業所には、常勤のサービス提供責任者１人以上の配置が義務付けられている。月間の延べサービス提供時間が４５０時間を超すごと、または訪問ヘルパー１０人を超すごとに、１人増やさなければならない。
サービス提供責任者は、利用者の日常生活や希望を踏まえ、訪問介護計画書を作成▽その内容を利用者に説明▽実施状況を把握▽訪問ヘルパーに技術指導する−などを行う。
このため、ケアマネジャーとは別に、サービス提供責任者も利用者の課題を分析。利用者の要求とニーズを区別して、隠れたニーズや可能性を見つけなければならない。
ところが、ケアマネには利用者の要介護度や取扱件数に応じて１件につき月４０００〜１万３０００円の報酬がつくのに対し、サービス提供責任者には報酬はない。給与は、事業所のヘルパーが現場で稼ぎ出す介護報酬から支払うことになる。
「責任者は一般に役割が重い割に、給料はケアマネよりも低い。せっかく責任者を育てても、ケアマネ資格を得て辞めてしまう」と所長は嘆く。
この事業所では、現在は責任者が２人。１人につき税込み月３０万円の給与を支払う。
ここ１年で介護報酬が３分の２に減収。毎月２０万〜３０万円の赤字を、経営者が別の事業の利益で補填（ほてん）する状態が続き、登録ヘルパーを減らした。そうすれば、責任者も少なくて済むからだ。
コムスンに対する監査では、サービス提供責任者の不在や常勤でないなどの不正が見つかり、問題となった。
日本ホームヘルパー協会の因利恵会長は「サービス提供責任者の業務に介護報酬の設定がないことが、事業所の運営を困難にしている。責任者の給与は低く、機会があれば聞いているが、一般に２０万円を超していない」と指摘する。
サービス提供責任者の月給を２０万円とした場合、これを延べ提供時間４５０時間で割ると、１時間あたり４４４円。現状は、ヘルパーが１時間働いて得る介護報酬ごとに、これが必要額として出ていく計算だ。逆に、こに報酬が付けば、ヘルパーの時給が上がる可能性もある。
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これまでの連載で、「利用者といっしょにする家事」と、代行型家事の区別があいまいで、サービスの質が報酬で評価されない実態をみてきた。
一方、サービス提供責任者の書類はサービスの質を評価する手がかりになりそうだが、決まった書式がない。細かく記録を付ける事業所もあれば、自治体の指導・監査に備えて用意する所もあり、内容やレベルにばらつきがある。書類に一定のレベルを課す一方で、報酬を付けることはできそうだ。
介護保険に詳しい龍谷大学の池田省三教授は「老計１０にのっとって、『専門性をもってする介護』『ともにする介護』に報酬を付けようにも、評価の仕方が難しい。不正が起きないように、統一的な判断基準を作る必要がある。その方法の１つとして、自立支援の目標を達成する期間を、例えば３カ月などに限定することが考えられる。サービス提供責任者には、加算を付けてもいいのではないか」と話している。
＝おわり
(2007/11/27)
