産経新聞社

ゆうゆうLife

効果を実感する介護予防(上)水中リハビリ

プールでの歩行訓練。ふだんは歩行につえや装具が必要な人が、負荷の軽い水中ならつえなしで1人で歩けるケースも


 ■動ける喜び自信に

 要支援や要介護の状態になるのを防ぐ介護予防。改正介護保険法では、軽度者が介護予防の対象となりましたが、要介護の人の介護度が改善されることもあります。予防や介護度の改善に自覚的に取り組む施設では、お年寄りが体を動かし、頭を働かせる効果を実感しています。介護予防の現場をリポートします。(寺田理恵)

 長さ15メートルの室内温水プールの真ん中を、半身まひの男性が自力で歩いた。

 廊下を往復する自主トレーニングのときは、脚に装具を付け、つえをついていたが、水中では装具もつえも要らない。笑顔には、自信がみなぎっていた。

 「ふだんは腰が痛い」という女性も、水中歩行訓練を終えた後、クロールで立て続けに3往復した。

 介護老人保健施設「アクアピア新百合」(川崎市麻生区)は開設して約半年。プールでの歩行訓練が、デイケア(通所リハビリテーション)の利用者や入所者に好評だ。

 足腰に痛みやまひがある高齢者でも、負荷の軽い水中なら、運動量を増やせる。理学療法士ら職員が付き添う安心感もある。最初は恐る恐る入っても、水中を歩けたことで自信がつき、体を動かす喜びが表情に表れる。

 別の男性は「最初はちょっと怖かったね。でもプールなら、倒れても泳げるんだからね」。89歳で要介護3。2回の手術を受け、退院後にいやいや通い始めた。しかし、「前は車いすだったが、家の玄関先の階段を手すりにつかまって下りられるようになった。今は歩行器を使っているが、つえ1本にならんかと思っている」と意欲をみせる。

 自主トレーニングに励む高齢者も多い。つえや歩行器を使って廊下を行き来したり、マシンを使った筋トレに打ち込んだりと、スポーツクラブのような雰囲気だ。

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 体を動かすのに積極的な利用者が多い理由のひとつは、リハビリの効果を自分やほかの利用者の事例で実感できること。開所してまだ半年余りだが、要介護状態が改善された人が少なくない。

 車いす生活からつえ2本で歩けるようになった通所の男性(74)は「ここに来る前は、2年半も家から出なかったのに、こんなに元気になったんですよ。友達もできました」と、はつらつとした表情。今月、要介護認定が要介護1から要支援2に軽くなり、通所回数が減るのが気がかりという。

 アクアピアを開設した石田和彦理事長は地元で開業する脳神経外科医だが、ケアマネジャー資格も持ち「心が動けば体が動く」がモットー。「利用者が元気になると、職員の士気の高揚にもつながる」と話す。相乗効果が施設全体を活気づける。

 プールの人気が高いアクアピアだが、もう1つの特徴は、入所者を預かったままにしない点。老健はもともと、在宅復帰を支援するリハビリ施設だが、介護する家族に施設入所の志向が強いなどから、実態は特別養護老人ホームと変わらない所もある。しかし、アクアピアでは本来の役割に力を入れる。

 入所段階で理学療法士や作業療法士が日常生活動作(食事、更衣、排泄(はいせつ)など)を評価。3〜6カ月後の在宅復帰を想定し、「1カ月後にバーでつかまり立ちができる」などの具体的な目標を示す。

 住宅改修の提案も含めて、在宅生活のイメージを本人や家族が明確に持てるようにする。リハビリは立ち上がりやトイレへの移動など、生活と直結した動作が中心。

 「老健の入所者は、介護保険を初めて使う人が多く、在宅サービスをご存じない方が多い。在宅の生活は難しくないと理解していただくため、入所中からケアマネジャーと連携し、在宅への意識を高めていきます」と支援相談員の赤池哲(あき)子さん。退所後の生活に希望を持てることが、本人や家族のやる気につながるようだ。

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 介護保険は法改正(18年4月施行)で、予防重視型に転換。要支援1や要支援2の軽度者を対象とした介護予防サービスが創設され、「筋力トレーニングをさせられる」といったイメージばかりが広がった。

 しかし、介護予防は本来、お年寄りの日常生活を活発化させ、介護状態になるのを予防したり、要介護の状態を軽減するのが目的。元気に過ごせるようになることは、軽度者だけでなく、介護度が進んだ高齢者にとっても望ましい。高齢者の意欲を引き出し、効果を上げている事例を紹介する。

(2008/02/13)