産経新聞社

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自力でトイレに行ける住宅改修(中)


 ■専門家との連携不可欠

 トイレにひとりで行けるようになるなど、要介護者の在宅をハード面で支える住宅改修。手すり設置や段差解消は介護保険の対象です。利用者の身体機能や生活上の課題を把握した上で行う必要があるため、医療や福祉、住宅の専門家の連携が求められています。(寺田理恵)

 欧米に比べて段差が多い日本の住宅。高齢者には、ふとんから立ち上がるときや和式便器を使う際の負担も大きい。

 住環境による不自由さを解消するため、介護保険では、対象となる住宅改修の費用が20万円(自己負担2万円)を限度に支給される。

 「玄関先の階段に手すりを付けて、手すりにつかまりながら自分で降り、外出できるようになった」など、手すりは使う人に合わせて取り付ければ効果が大きい。

 その半面、経験不足の建築業者が利用者の動きを理解しないまま改修した結果、「手すりが役に立たない」といった事態が生じるケースも少なくない。ケアマネジャーが自社と関係のある住宅改修事業者を紹介し、限度額いっぱい請求するケースもある。高齢者でなくても、改修工事の費用の目安は分かりづらく、業者選びも難しいのが現実だ。

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 「ケアマネに紹介された事業者に依頼したら、希望を聞かず、工事内容の説明もせず、見積もりも出さないまま工事を行い、20万円の請求があった」「手すりの取り付けを依頼したが、見積書を出さず、位置の確認もせず取り付けられてしまい、役に立たない」。こうした住宅改修をめぐるトラブルの相談が、全国の消費生活センターに相次いだ。

 介護保険の住宅改修は、利用者がいったん工事費用の全額を負担する償還払い。介護保険のスタート当初は、工事終了後に支給を申請する事後申請制度だったため、「介護保険で住宅改修ができる」を勧誘の手口に、給付額を超す高額の契約を結ばせる訪問販売のトラブルも目立った。

 そのため、国民生活センターは平成14年、被害の防止策として、事前申請制度の導入と、理学療法士や作業療法士、介護の知識をもつ建築士などの専門家をつなぐ仕組み作りを提言した。

 住宅リフォームをめぐっては、17年に高齢者をねらった悪質リフォームが社会問題化。「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」(東京都千代田区)の電話相談件数が増加し、各都道府県と政令指定都市には新たにリフォーム相談窓口が設けられた。

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 18年の改正介護保険法では、こうした事態を踏まえ、事前申請制度を導入した。利用者や家族の課題を把握し、どのように改善するかを検討するプロセスを重視。これを反映した「住宅改修が必要な理由書」の添付を義務付けた。

 野村歓・国際医療福祉大大学院教授は「手すり一つとっても太さ、長さ、高さ、形をどうするか。その人に適した改修方法を、現場や本人をみて見極めなければならない。しかし、ケアマネジャーに住宅に関する知識が十分にないため、改修で得られる効果が推測できず、自信をもって勧めることができない。一括して施工事業者に投げてしまいがちだ。住宅と福祉を結びつける仕組みを作る必要がある」と指摘する。

 改修工事は、例えば手すりを取り付けるために下地を補強しなければならない場合もあり、工務店など専門業者が行う。利用者が介護保険の申請を相談する相手はケアマネ。介護保険と合わせて効果的な改修を行うには、ケアマネと医療や住宅の専門家との連携が不可欠だ。

 しかし、それが十分でない場合は、自分で情報を探すことも重要だ。「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」が情報提供サイト=別項=を運営しているほか、自治体によっては、住宅改修に関するアドバイザーを利用者宅に派遣する制度がある。

 次回は、住宅改修の専門家がかかわり、少額で効果を上げるケースを紹介する。

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 ≪住宅リフォーム・紛争処理支援センターの相談窓口≫

 電話相談((電)03・3556・5147)

 情報提供サイト「リフォネット」(http://www.refonet.jp)

(2008/03/18)