産経新聞社

ゆうゆうLife

自力でトイレに行ける住宅改修(下)

浴槽を撤去し、シャワー浴に改修した事例(品川区高齢福祉課提供)


既設トイレに洗浄用水栓を取り付けた事例。ポータブルトイレを使う家庭では、汚物処理が楽になる(品川区高齢福祉課提供)



 ■業者任せにせずコスト減の工夫

 介護保険の住宅改修は、1人20万円が上限。大規模なリフォームは難しく、手すりの設置で済ませがちです。しかし、福祉用具の利用や、生活習慣の見直しによって、少額でも効果の高い改修が可能です。(寺田理恵)

 座って調理できるキッチン。ワンタッチで操作できる水栓。「品川区バリアフリー住まい館」(東京都品川区)では、バリアフリー住宅や福祉用具の使い勝手を体験できる。区の委託で運営するのは、1級建築士事務所「レック研究所」代表の安楽玲子さんだ。

 「気楽に動くことができれば、自然に料理をするようになり、栄養状態の改善も期待できる。動きやすくすることは、結果としてリハビリ効果を生む」と話す。

 安楽さんは、品川区から依頼を受け、介護保険や区の助成制度の利用者を訪問する住宅改修アドバイザー。ケアマネジャーや施工業者と相談しながら、どのような改修が適切かを助言する。図面や見積書のをチェックや、終了後の再訪問で工事内容の確認も行う。

 多くの事例を手がけた経験から「一般に業者は目いっぱい、手すりを付ける。利用者も『手すりをつけてください』という要望が多いが、トイレまで手すりにつかまって歩くより、歩く距離が一歩でも短い方がいい」という。

 90歳代の女性の事例では、家族から「夜間にベッドからトイレに行けるよう、途中にある和室の押し入れや床の間にも手すりを付けてほしい」と要望があった。

 改修では、ベッドから行くという発想を転換し、ベッドをトイレに近い部屋に移した。そして右開きだったトイレのドアを、開けたときに回り込まずに済むように左開きに付け替えた。ドア周辺に手すりを2本設置し、取っ手を握りやすいタイプに換えた結果、改修費11万円でトイレに行きやすくなった。

                 ◇

 介護保険の住宅改修費の上限額は20万円。車いす利用のために床の段差をなくしたり、廊下を広げたりする大規模な改修工事はできず、たいていは手すりや踏み台を設置する程度。しかし、福祉用具=表=も活用することで、効果が上がるという。

 「手すりですべて対応できるわけはない。例えば部屋を横切る動線に手すりは設置できない。しかし、手すりと歩行補助つえを組み合わせれば、屋内を動き回ることができる」と安楽さん。

 脚を骨折後、要介護2になった70歳代女性は、茶の間から寝室やトイレに移動するため、手すりの設置を希望した。ところが、女性の家は、手すりを飛び飛びにしか設置できず、つかまって移動するのは難しかった。

 そのため、女性の身体機能なら、歩行補助器の利用が可能と判断し、小ぶりの補助器の利用を助言した。その結果、女性は家の中で自力歩行ができるようになり、介護度も改善した。

                 ◇

 保険給付の対象外でも、ちょっとした工夫で毎日の生活が楽になる。

 例えばポータブルトイレを使う家庭の場合、汚物の入ったバケツをどこで洗うかが悩みの種。ふつうの水洗トイレに洗浄用水栓を取り付ければ、トイレでバケツを洗える。

 入浴が難しくなった場合、福祉用具の利用やデイサービスでの入浴も選択肢だが、浴槽を撤去し、シャワー浴に換えるのも一つの手だ。湯につかる習慣をもつ日本人には抵抗を感じる人が多いが、シャワー浴は体の負担が小さく、入浴準備や浴室掃除が手軽。実際に切り替えた人には「準備が要らないので、いつでも楽に入浴できる」と好評だった。

 安楽さんは「心身機能が低下しても、長年の習慣を変えずに生活したいと望む高齢者は多いが、暮らしを少し見直すことで動作が楽になる」と話す。

 住宅改修アドバイザーは、利用者の身体機能や生活全体を把握してコーディネートする専門家。しかし、こうした専門家を配置している自治体はまだ少ない。

 住宅リフォーム・紛争処理支援センターは「見積もりが大まかで、図面ももらえないなど、リフォームが荒っぽく進められるケースもある。書面だけでなく、図面で確認する必要がある」と呼びかける。利用者側も、不自由を感じている場面や原因をはっきり伝え、見積もりや図面を確認するなど、業者任せにしない姿勢が大切だ。

(2008/03/19)